すべての始まり
第1話 すべての始まり
開けた山のふもとに、二人の少年がいた。
一人は金髪をワックスでがちがちに固めた少年。もう一人は癖っ毛の黒髪と緋色の瞳が特徴的な少年だ。
二人の少年は見たこともないような異形な生物に囲まれていた。
「兄貴、濃い面どんどん増えてキリがねぇよ!」
「あぁ?そりゃお前のくそエイムのせいだろ」
金髪の少年は二丁の拳銃を手に異形の者たち相手に戦っていたが、兄貴と呼ばれた緋色の少年は手をポケットに突っ込んで退屈そうにあくびまでしている。
金髪の少年は一人で無数の異形相手に攻撃を仕掛けるも、その弾道は明後日の方向へと飛んでいき、異形を刺激しただけだった。
と、いうより目をつぶりながら撃っているため当たるはずもなかった。
「兄貴~少しは手伝ってくれよぉ…!」
「…まったく、しょうがねぇ奴だなぁ」
緋色の少年はあきれたように頭を掻いた。
「援軍は呼んでやる。その代わり俺は手ぇださねぇからその間は自分で何とかしろよな」
「ホントか!?よし、それまでくらいなら俺だって…!」
自分を鼓舞するように意気込むと、金髪の少年はまた異形を相手にし始めた。
その拳銃から放たれる銃弾はバチバチと電気を帯びていて、被弾した周りには電流が流れていた。
「自分で倒すって選択肢はねぇのかよ…本当情けねぇ奴だな」
そうぼやくと、緋色の少年はここじゃないどこかに意識を集中させ始めた。
《ギン、聞こえるか?ギン!》
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「~が~であるからして、このxはyに代入できる」
昼休みが終わった後の最初の授業に、1番窓際で1番後ろの席。おまけに数学の呪文のような公式を聞かされるなんて、まるで俺に早くおやすみなさいと言っているようなもんだ。
「ふあぁ~」
ほら、言わんこっちゃない、あくびが出た。
もう欲望に身を任せて寝てしまおうか…。
「それじゃあこの公式を使って…そうだな、佐藤この問題を解いてみろ」
「ええ!?ああ、えっと~…どこの問題?」
「…佐藤、また集中してなかったな?」
「あ、あはははは…」
俺の名前は佐藤賢人。北九州市にある若戸工業高校に通っている普通の高校生だ。
勉強は苦手だけど、運動は親父譲りでまぁまぁ出来るほうだと思う。
これといって特に取り柄もない、いたって普通の高校生…の筈だったんだ。
あの声が聞こえるまでは…。
《ギン、聞こえるか?ギン!》
「ギン?茂、お前なんか言った?」
突然聞こえてきた声。俺はその出所を探すように周りを見渡したが何もわからなかったため、隣の席の山本茂に訊ねてみた。
「ん?いや、何も言ってねぇけど…?」
「おかしいな、確かに聞こえた筈なのに…」
「寝ぼけてんじゃねぇの?」
あんなにはっきり聞こえた筈なのに、茂には聞こえなかったのか?
(やっぱ空耳か?そもそもギンって誰だよって話しだしな…)
《ん?誰だお前、ギルドの者じゃねぇな?》
「!?」
驚いて飛び跳ねる俺に、またクラス中の視線が集まる。
ああ、また先生が呆れていらっしゃる…。
「おい佐藤…もう少しまじめに授業受けないと留年するぞ?」
「す、すいません…」
謝りながら、俺はさっきの状況を整理することにした。
さっき聞こえてきた声は、どうやら俺の頭に直接響いてきているもののようだった。相手は聞き覚えのない、声変わり手前のような声で、俺の妄想なんかじゃないということがわかる。
(どうなってるんだ!?会話…できてるのか?)
《あぁ?変なこという野郎だな。できてるからこうして会話してんだろ》
「おい賢人、どうしたんだよ」
驚いて固まる俺に、心配して茂るが話しかけてきたが、俺の耳にはまったく入ってこなかった。
(何がどうなってるんだよ…俺、とうとう頭おかしくなったのか?)
普通の高校生だと思ってたのに!やばい、なんか変な汗でてきたかも…。
1人パニくる俺をおいて、頭の中の声はかまわず話を続ける。
《“念波”をしらねぇのか?まさか…お前、今どこにいる?》
(どこって言われても…若戸工業高校だけど)