そして空白に終着する
何もない日曜日。
僕はテレビを見ながら、彼女は新聞の折り込み広告に目を通していた。
「あ!」
彼女が突然、声を上げた。
「どうした?」
「これは確かめなくては!」
「はい?」
「行くよ! 私はこの目で見なければならないのよ!」
そう彼女は言って、部屋着のポケットに財布を入れて飛び出した。
仕方がないので、僕はよそ行きの服に着替えた。
「遅いよ! 置いていくよ!」
彼女は容赦がない。
「さあ、着いたわよ!」
彼女の後をついて辿り着いた場所は、有名な某ドーナツショップだった。
「あなたは席を取っておいて。商品は私が買ってくるから!」
「わ、わかった」
そう言って彼女は意気揚々と店の中に入っていった。
何が彼女をそこまでさせるのか。僕は首を傾げながら空いている席に座った。
「さあ、来ましたよ!」
窓の外を見ていると、彼女が買った商品を持って向かいの席に座った。
「あれ? ペーパーナプキンが被っているけど……」
「ああ、一緒に見ようと思って店員さんにお願いしたんだよ」
得意げに彼女は笑った。それは善人ではなく悪人のようだった。
「さあ、見ますよ!」
彼女は自分の口で「ジャジャ~ン!」と効果音をつけてペーパーナプキンをとった。
そこで僕は、彼女が楽しみにしていた理由が分かった。
それと同時に彼女の表情は萎んでいった。
「なによ! ただドーナツの空白に丸いドーナツを入れただけじゃん!」
帰り道。彼女は道端にある石を蹴飛ばした。
「空白を食べることができたんだからいいだろうよ」
「あれはドーナツを侮辱している。丸いドーナツを入れからって、空白を食べたことにはならないわよ!」
彼女の興奮は収まらない。
「アメリカならあれは犯罪物よ!」
「どうして?」
「なんか、『ドーナツの穴は販売してはいけない』とかいう法律があるみたいよ! ああ、ここがアメリカであればいいのに!」
残念。どうやってもここは日本でしかないよ。僕は心の中で呟いた。
「期待した私がバカだった! やっぱり、あの空白があってこそのドーナツ! あの空白は絶対領域としてだれも触れてはいけないのよ!」
騒ぎ立てる彼女は持ち帰りしたドーナツを一口齧り、口についた砂糖を手で拭き取った。
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