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プロローグ

   プロローグ


 人の心に負の感情が宿りし時、心にぽっかりと小さな穴が空く。

 そのうろに魔は宿る。

 魔は人の負の感情を苗床に、密かに芽吹き育ちゆく。

 ――あいつが憎いだろう?

 魔はいつしか宿主である君に語りかける。

 ――お前はちっとも悪くない。

 ――悪いのはあいつだ。

 ――可哀想なお前のため、誰にも負けない特別な力を貸与えよう。

 ――誰もがあいつを放置するというのなら、お前が××してやればいいのだ。

 子供をあやす母のような優しさで、風にそよぐ白いレースのカーテンのような柔らかさで、この世で唯一の理解者であるかのように魔は黒く萎びた手を差し伸べる。

 既に心が壊滅状態に陥った者にとって、それはとても甘美な誘惑だ。

 その異形の手に恐怖することも抗うこともできないまま、ふらり、ふらりと一歩また一歩、魅入られたように歩み、君は異形の力を手にすることだろう。

 さすれば、君に叶えられない願いはもう、無い。

 金も女も権力も、欲しいがまま。奪うがまま。

 誰も君を止められない。

 力に溺れ、欲に溺れ、人の良心は底知れぬ闇の中。

 だが、人の身に肥大化した虚はあまりに重い。

 その身次第に器は軋み、歪んでいく事だろう。

 よりいびつに、醜く、壊れて、壊れて――君は心も体も『魔の物』へとなり果てる。

 ――魔が差した。

 そんな言葉の似合う君は、たった一つの過ちで、家族も友人も、恋人も失うだろう。

 君は世界で一人きり――いいや、一匹きりのケダモノだ。

 その頬を濡らすのは悲しみの涙か、歓喜の涙か。

 その喉を震わせる咆哮は、怒声か、悲鳴か、はたまた絶望の嘆きか。

 人に在らざる者の気持ちなど、誰も、もう、知る術は無い。

 理解などされるはずもない。

 なぜならそれは、人の世の禁忌タブーなのだから。


 哀れな哀れなケダモノは、夜陰に紛れ、そっと真紅の徒花を咲かせて散るだろう。

 その耳に、小さな「ごめんね」を残して――。



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