グッドモーニングでーす!
「同士」と人影は言った。
「はい」
「先ほどの質問をよく考えてみなさい・・・、なぜ貴方は捕まり、そして殺処分されることになったのか?」
哀鬼は必死でその理由と原因と考えた(思い出そうと勤めた)。そこにはとてもクールな自分と、血眼になって目的を達しようとする自分が必要であった。まずは今までの記憶と現在の状況を整理する必要がある。「イノセンス」の審議が終盤にさしかかった頃、哀鬼は自分がここに来ることになった一部始終を思い出すことに成功していた。
あれは深夜、街のありとあらゆる建物の灯は落ち、深淵な黒色が街を不吉に覆い隠していた時間帯のことであった。哀鬼は自室のベッドの上で深い眠りの中を漂っていた。
枕やシーツといった寝具は全て絹で統一されていて、部屋に置かれた家具は服を入れる箪笥が一つ、ベッドの横に物置台が一つ、その物置台の上に水の入ったコップが一つだけであった。寝る前にはしっかり歯も磨いたし、朝起きるとすぐラジオ体操に近くの公園に出かける。そこでもらえるシールはもう何枚溜まったか数えられないぐらいだ。もちろん哀鬼の言動や態度はしばしば問題として注意されることはあるが、規律に反したり人様に迷惑をかけるような行いはしていない(はずだ)。
突然、風に吹かれたように自然に、それが逆に不自然にさえ映るように、哀鬼が寝ている寝室の扉が開いた。
キィ・・・キィ・・・
耳障りな鳥の鳴き声のような扉の開閉音、その微かではあるか耳をつく音は哀鬼の睡眠をかき乱すには充分であった。哀鬼は眠り眼を扉の方へ向けると、闇の中で小さな人影が揺れ動いた。
「ん・・・、誰かそこにいんのか?」と哀鬼は匿名の誰かに話しかけた。
パンッ!パンッ!
閑静な夜の装いを吹き飛ばす、無機的かつ業務的なクラッカー音。そして、それと同時に部屋の照明が一気に灯された。
「うっ・・・」夜に慣れた哀鬼の目が光で眩む。
「・・・んだ、誰だ!そこにいんのは!」
「グットゥオモォーニンンでーす!」とその小さな人影が言った。