尋問
カシャンッ
淀みない深闇を引き裂くように現れた光線は、薬で気を失っていた哀鬼に注がれた人工的な光であった。彼の両手両足、そして首が手術台のようなところに固定され、指一本動かないと言いたいところだが指は動くが、とにかく身動きがとれない状態であった。金属特有のひんやりとした感触が背中を伝い、彼を落ち着かない気持ちにさせた。
「眩しい!眩しい!光を弱めてくれ!」哀鬼はそこにある人の気配に向かって叫んだ。
「同士」
「貴方はものの頼み方すら忘れてしまったのかな?」とそこにいる誰かが言った。
歯を食いしばり、眉間にこれでもかと皺を寄せて目を閉じるが、その圧倒的な光の洪水はそうした努力をあざ笑うかのように飲み込んだ。
「痛い!はあ・・・目が・・・目が焼け落ちそうだ」
脳味噌が溶けてしまいそうな気分で、物事をまとまって考えることができない。酸度の高い汗が背中をどろりと伝わり落ちる感触がある。
「はあ・・・、そこにおられるジェントルマン、すみませんが光を少し弱めて頂けませんか・・・」哀鬼は声を喉の奥から絞り上げるようにそう言った。
「よろしい」と誰かが言った。
光はゆっくりと弱められた。
「ふう・・・はあ・・・っ痛ぁ・・・」
哀鬼は目を痛めてしまい、周りの光景に目のピントが合わなくなってしまった。哀鬼が横たわる手術台のようなベッドの横には人影を感じる。しかし、未だ弱々しくも存在感を放ちながら降り注ぐ光の影となり、その姿をしっかり見定めることができない。それ以外に、手術台が設置されたこの部屋は長方形で、大体六畳といったところで、目立った装飾品や調度品はない。
「同士」とその人影は言った。
「・・・はい」
「貴方がなぜ『イノセンス』で審議にかけられ、死刑になるのかわかるか?」
「・・・わかりません」
「確かに俺は口は良くありません。知性や品格も欠けているのかもしれません。けど、別に人様に迷惑をかけるようなことはしていません!」と哀鬼は言った。
「貴方は一つ勘違いをしているようだ」
「勘違い・・・」と哀鬼は繰り返した。
「貴方の言うとおり、確かに素行が素晴らしいとは言えないが、それはあんな仰々しいところで咎められるようなことではない」
「じゃあなんで・・・なんで俺がこんな目に合わなくちゃいけねえんだよ!」
哀鬼は手足をばたつかせ、顔を真っ赤にしながら、怒りを全身を震わせながら現した。
「わけわかんねえよ!だったら俺がこんな目に合う理由なん・・・」
先ほど浴びた強烈な光が哀鬼の視界いっぱいに広がり、哀鬼は酷く混乱した。
「あああああああああああ!!!!!」
「貴方は立場を正しく認識すべきだ。・・・私の指一つで君を今すぐに殺すこともできるんだ。言葉や態度に気をつける必要があるとわからないのか?」
「すみません、すみません。でしゃばった態度でした。ですからどうぞ光を止めてください!目が見えなくなってしまいます!」
哀鬼は必死に懇願した。それ以外何も考えられなくなってしまう、そんな痛みなのだ。
「よろしい、しかし次はないぞ」光は弱められた。
「ああああ・・・ありがとうございます」
哀鬼は本気で言葉や態度に気をつけようと思った。「安楽な死に方じゃないやつ」とはこれのことなのだろうか。それともこれはまだ序章であり、これからこうした拷問が何十何百何千と繰り返されるのではないだろうか。そう考えると、先ほど「死」について論理的に行儀良く思考に耽っていた自分が嘘のように、「死」が手を伸ばせば届きそうで、それがたまらなく怖かった。