コドナ
コン!コン!コン!
木製のハンマーが叩きつけられたのと同時に場内に漂っていた聞き取れない霧のような雑音が止んだ。空気がひんやりと、そして哀鬼に匿名の視線がちくちくと突き刺さるのを感じ取れた。
「被告人、哀鬼」と診断院の常務役員が業務的に読み上げた。
「はい」
「我ら診断院において、被告人の再診断を行った。といっても、その際、被告人は意識が朦朧としていたので、それを記憶に留めているかわかりかねますが」
その役員は、独特の言い回しではあったが、怒りや悲しみといったあらゆる感情を欠いた喋り方をした。
「結論としましては、再診断の結果、第一次適正診断と変わらず、被告人は半堕ち、『コドナ』に堕ちたようであります」
「コドナ・・・?」
「よって、診断院の判断に依拠するところ、貴殿、哀鬼のコドナ化は疑いの余地なく、また貴殿からは反省、もしくは改善の様子が伺えないことから、殺処分が妥当ではないかと思われるであります」
「は?殺処分だって?」
「被告人、言葉を慎みなさい」と、この決議の議長らしき人物が哀鬼に命じた。
「いやいやいや、おかしい話です。俺はこんな無駄に大袈裟な場所で咎められるようなことはしてません!」
「被告人!」議長(らしき人物)が声を荒げて哀鬼の反論を遮った。
ああ、あいつの言う通り、結局のところ俺は「安楽な死に方じゃないやつ」で殺されることは確定しているんだ。どれほどの雄弁な言葉をかき集めたとしても、ここにいるやつらの決定を覆すことはできないだろう。コドナ?咎堕ち?それはお前たちの利害関係で言ってるだけのただの戯言だ。俺から見ればお前たちのほうがよっぽど堕ちてるぜ。
「次、・・・委員会からの報告・・・」「昨年のレドナ地区役所にて実施された診断によると・・・」「幸福院の定める『氣里子徒』第五項に抵触する・・・」「・・・診断院の判断は正しいものと考えられます・・・」
決議は用水路を流れる匿名の水たちのように、恣意的かつ人工的に、必要な形式を踏みながらもその流れを遮るものは何もなかった。その滑らかな言葉と言葉の交差が生み出す潮流は、長い年月によって養われた職人の技術のようですらある。いや、実際それに近いのかもしれない。今までにもあいつらはこのような恣意的な決議を何十何百何千と繰り返してきたんだから。