end and start
「俺・・・いや僕が尋問されている理由とは何なのでしょうか?」と哀鬼は尋ねた。
この国の犠牲になってもらうのなら、わざわざ哀鬼を尋問する必要はない。尋問が行われる前提には、引き出した何かがそこにはあるはずだ。しかし、哀鬼にはまったく心当たりがなかった。
「貴方の一番大切な人間を殺す」
「え・・・?」
「貴方同様、貴方が一番大切だと思う人間を殺さなければならないんだ」と尋問官は言った。
「・・・国のために」
「そう、国のためにだ」
哀鬼にとって一番大切な人間・・・神皇以外に検討もつかない。
「・・・言えません・・・」と哀鬼は言った。
ガシャンッ
強烈な光の束が否応なしに哀鬼に浴びせられる。脳味噌が火炙りにされているような激痛が神経を伝い全身を打つ。
「さあ、言え!一番大切な人間は誰だ!」と尋問官が声を荒げた。
「俺はこんなことに屈したりはしない!言えない!」
カチカチカチッ
ガシャンッ
キィィィイイイイイイインンンッ
機械が耳障りな駆動音を発しながら、さらにその光の力を強めた。その痛みはもはや痛みといった感覚を超えて、言語というものに置き換えられない段階へと突入していた。
「うぁぐっっぁぁあああああああああああ゛あ゛あ゛っ!!!!」
身体のあらゆる液体が干上がるような感覚を覚えた。そしてゆっくりと身体的な感覚が遠ざかり、死というものがゆっくりと哀鬼を包み込もうとしていた。
「貴方だって安楽な死に方をしたいはずだ!早く言わないとこのまま死ぬぞ!さあ、言え!貴方の大切な人を!」
尋問官の身体から汗が滴り落ち、そして表情はどこか困惑していた。
哀鬼はその素行の悪さから、決して人に好かれる人物ではなかった。人に誤解をされることも多かったが、それを冷静に訂正できる能力もなかった。哀鬼はそうしたやり取りが面倒臭くなり、日ごろから他人と必要最低限の関わりしか持たなかった。それは孤独な世界だった。
神皇と初めて出会ったのは診断院で行われる年に一度の適正検査の時だ。二人の物事の考え方は真っ二つに割れていたが、そういうものを超えた親しみをお互いに自然と抱けた。神皇との出会いをきっかけに、哀鬼は徐々にではあるが他人と関わるようになった。誤解を解く努力に向き合うようになった。おかげで数人の知人までできた。そして哀鬼と神皇の関係はさらに深まったものとなった。
「ぉお゛っれは・・・、親友お゛・・・う゛らない・・・!」
「・・・」
カシャンッ
光を発し続けた機械の駆動音が尻すぼみに小さくなっていく。それと同時に、哀鬼の目の前を覆っていた悪魔的な光が影を潜めていく。しかし、既に哀鬼のあらゆる感覚は光に削ぎ落とされ、そうした状況に何の反応もない。既に片方の足はあちらの世界に踏み出されているのだ。
「・・・非常に残念だ」と尋問官は言った。しかし哀鬼は理解できなかった。もう言葉を理解する力さえ失われていた。
尋問官が部屋を離れる刹那、哀鬼は初めて尋問官の姿をしっかりと捉えた。尋問官に向けられた哀鬼の目の瞳孔が開く。途端、あらゆる前提を含んだ精神の足踏み場が静かに崩れ落ちてゆく。グラグラと揺れる自分という存在と現実。形容しようのない、やり場のない感情。
「・・・ああ・・・」
出入り口の扉が閉まる瞬間、尋問官はこちらを振り向いて見た。間違えようのない現実が刃となり、哀鬼の胸に深々と突き刺さる。尋問官の姿は間違いなく神皇だった。
「・・か・・神皇・・・?」
ガチャンッ
鉄製の扉が重々しく身体を揺すり、そして堅く閉ざされた。
そして、哀鬼は一人となった。
このような粗末な作品を読んでいただいてありがとうございました。




