表と裏
「・・・それは、『理由がないというのが理由』ではないかと思います。納得されないかもしれませんが・・・」
「・・・」
横に確かな人の気配は感じるものの、部屋は完全な無音であった。哀鬼はこれまでに、これほど沈黙を痛切に感じる経験などしたことなかった。その沈黙が語る気配が肯定的であるのか否定的であるのか、哀鬼にはわからない。ただ、またあの光を浴びせられるのではないのか、ということを想像し、そして恐怖で心が落ち着かなっている。
「・・・良い度胸だ。自らの死に直面している人間に、なかなかそういう言葉は吐けない」と哀鬼に尋問を続ける人影が言った。
「だからこそ、貴方はここで死ぬことになる」
ただ叫びたかった。それはコミュニケーションではない。一方通行に自分の衝動を解放したかった。しかし、三度あの光が視界を覆ってしまうことが抑止力となり、哀鬼に奇妙な冷静さを与えていた。
「人は真理や真実なんてものを望んではいない。彼らが望むもの、それは自らに都合の良い真理や事実だ。それは人だけじゃない、社会、そして国もそうなんだ。貴方には国の犠牲になってもらう」と尋問人が言った。
「・・・残酷な世界だ」と哀鬼は呟いた。
「表があれば裏があるということだよ。裏なしに表は成し得ない、それがこの世界だ」




