state of confusion
街の空は相変わらず分厚い雲の帽子をかぶり、街に吹き付ける風はどこか暴力的である。まるで誰かに何かを警告するような、そんな暗示にすら受け取れる。
「いやいやいや~、ワタクシといたしましても、『オトナ保険』だなんて言われましても、これはなんなんだ?と疑問符を付けずにはいられないわけでありまして、だから哀鬼様の反応も当然というわけになりますね」とグッドモーニングマン(仮)は言った。
「オトナ・・・ホケン?何だそりゃ、ホケンって何だ?」
「ああああ、そうですそうです、こちらの世界では保険なんてものは存在しないわけですから、本当に当然中の当然の疑問でございますね」と奇妙で控えめな笑い顔をつくるグッドモーニングマン(仮)に、哀鬼は苛々せずにはいられなかった。
「保険はですね、そうですね・・・、保障の約束事のようなものですかね」
「ふーん・・・、でそれが俺に何の関係があんの?」
「まあまあまあまあ、物事には順序というものがあります。先に『オトナ保険』について説明させていただきます」
「『オトナ保険』とはその名の通り、オトナに関する保険なわけですが、保険の対象となるのはオトナではありません、コドモです。どういうことかというと、コドモの方が咎落ち、つまりオトナになってしまった場合の保証です。例えば、哀鬼様が咎落ちされた場合、この保険に入っていればワタクシ共がある保障を致します」とグッドモーニングマン(仮)は言った。
「俺が咎落ちだって!?」
「あくまで、『例えば』の話です」
それが、素っ頓狂な「例えば」ではないことを、哀鬼は理解していた。グッドモーニングマン(仮)が他の誰のところでもなく俺のところに来たという覆せない事実は、すなわち哀鬼の咎落ちの可能性を見越してのことだろう。それがどのような方法をもって行われたのかは哀鬼にはわからない。しかし、グッドモーニングマン(仮)が「コドナ」であるという事実によって、嫌にそれに真実性が帯びるのだ。頭の中が、視界が、ぐにゃりとねじれていくような感覚に哀鬼は襲われた。方向感覚、水平感覚といったものが脳味噌の隙間からこぼれ落ちてしまい、自分自身がどのような姿勢で、表情で、このグッドモーニングマン(仮)と対峙しているのか解らなくなる。
「・・・どうしました、哀鬼様。血色が良くありませんが・・・」
「・・・確かに俺の素行は褒められるようなものではないかもしれない。けどさ、咎落ちとまでされる程、俺は堕ちた行為に及んだ覚えはない!」
「・・・ご安心ください。あくまで例え話です」
「いや!いや、例え話なんかじゃないはずだ!じゃあなんで、他の誰のところでもなく俺のところへ『オトナ保険』だなんて勧めにきたんだ!」
「・・・物事には必ずしも理由や原因があるわけではございません。むしろ、そのようなものは便宜的に存在するだけであって、実際そんなものは存在しないと言っても過言ではないでしょう。ワタクシが哀鬼様のお宅に訪問させて頂いたのもまた、そういうことであります。つまりですね、理由がないというのが理由というわけです。納得なされないかもしれませんが」とグッドモーニングマン(仮)は言った。
「帰れ!『オトナ保険』なんて俺の知ったことじゃない!」
「まあまあまあまあ、説明だけでもお聞きになられませんか?時間はとらせません。何よりこれはワタクシのためではなく、哀鬼様のため・・・」
「説明を聞くつもりはない!そんなものに関わるつもりは、今もこれからもない!」




