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北へ・・・   作者: Haruka
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舞い込んだ蝶 其の参

 カンナは連れ出した沖田を置いていける筈もなく、

沖田のすぐ隣りで足の先をぱたぱたと上下させている。

まだかまだかと待つばかりである。


ふと、遠くに大勢の足音を聞き、やっとかと音のする方へ身体を向けてみれば、

その足音は新選組の応援ではなく、会津藩、桑名藩の応援だ。


先に来るのは新選組のはずではなかったか?等と思いながらも、

カンナは焦っていた。

このままでは新選組ではなく、会津藩らの手中に手柄はおさまってしまう。

この状況は、カンナ一人で引き留めなければならなかった。

・・・さて、どうしたものか。

とにかく、カンナは池田屋の前に立ちはだかるようにして仁王立ちした。


何も言うことなど決まっては居なかった。

下手をすれば、斬られてしまう可能性だって無いわけではない。

しかし、この場に新選組隊士が誰一人としてこちらに手が回らない以上、

何とかするしかない。

特に新選組に義理立てするようなことはされていないが、

ただ、興味があった。

カンナの祖先が居る新選組に。

先祖がどのようにして新選組で働いてきたのか、どんな人だったのか

どれだけ剣術が強かったのか、気になった。

そして、このカンナの持つ刀の持ち主でもあるため、一度でも良いから

話してみたかった。


 藩の応援で来た大勢の兵がカンナを前にして立ち止まった。

一番前で兵を引き連れている人物はなかなかの巨漢でさらにかなりの

コワ顔だ。普通ならば、後ずさりしているところだろうが、

そんなわけにはいかない。


「そこの女、我らを通さんか。」


この男は、声もでかく、低かった。

迫力がある。兵を引き連れ上に立つだけの力はあるのだろう。

しかし、カンナは怯まずに真っ直ぐと睨みつける。


「嫌よ。あなた達を入れるわけにはいかない。」


これは平和に対処したいものだ。

せめて冷静に堂々としているべきだろう。

ここで縮みこまってしまえば、完全に押されてしまう。

それは避けたかった。


「我らは会津藩の者であるぞ。」


「ふーん。だから?・・あなた達ねぇ、この中の状況知らないでしょう。

今、この中では激しい斬り合いが続いてる。

敵か味方かなんて見分けてる暇なんて無いの。判断出来るのは、あの新選組の

象徴である浅葱色の羽織だけ。

あんたらがそんな普通の格好で入っていったら、敵だと見なされて斬られるだけよ。

分かるかしら。まぁ、無駄死にはしたくないでしょうからここで待機。」


巨漢はグッと黙り込み、唇をかむが負けを認めたくないのか

まだ、無理矢理なことを吐く。


「しかし、・・戦力が足りぬのではないか?たった10人で討ち入ったと

聴いていたのだが。」


「えぇ。10人ではいってったわ。でも手助けはいらないわよ。

なにせ、隊の中でも優秀な幹部が揃ってるもの。 

あんた達が入っていったとしてもこんな小さな宿だもの。

邪魔になるに決まってるわ。」


会津藩らはどうしても手柄を取りたいようだ。

しかし、カンナがそれを許さない。

冷静でいたいと思っているカンナも少々いらついてきている。


「大人しく待機してなさいよ。

それとも、そんなに手柄が欲しいの?

・・・だったら、何処よりも早く駆けつけなさいよ。

あなた達にこの件の手柄を取る資格なんてない。

遅れたんだから。

・・・とにかく、今回はあなた達の仕事はない。

あるとしたら、後始末ね。」


カンナは透き通った瞳で睨みつけ、兵が地面に座り込むのを確認してから

辺りを見回した。

兵達が座り込むと目の前の景色がスッキリとした・・・と思えば、

既に新選組の応援は兵の後ろに来ていた。


カンナは気まずい空気から逃れようと再び池田屋内へと歩き出した。


「待て。女子が何だってこんな所にいる?」


カンナは目でその声の人物を捕らえると、

その人物は、カンナが会いたいと願った者だった。


あのひとである。

写真では服装も髪型も年齢も違っていたが、やはりあの新選組の副長

である土方歳三だ。間違いは無い。

この者はカンナの祖先に当たる人物であり、彼女の持つ刀の持ち主でもある。


「・・・・貴方に・・会うためです。」


それだけを言って宿内へと入る。

沖田の事は、もう心配ないだろう。

カンナの後から応援の隊士達がぞろぞろと入ってくる。

これで安心だ。

・・・と思い刀を抜くと、一人の若い隊士がカンナの

肩を叩く。


「あの、これ副長が貴方にと。」


そう言って手渡されたのは、無造作にたたまれた浅葱色の隊服だ。

受け取るとまだ暖かかった。

先ほどまで土方が着ていたものなのだろう。


「ありがと。」


さりげなくお礼を言って羽織を羽織った。

少し大きくぶかぶかな気もしたが文句は言えなかった。

羽織ると、ほのかに懐かしい香りがした。

それは、祖父が床に伏せていても必ず焚いていた香の香りだ。

木の良い香りがする香で、カンナはそれが好きだった。

そんな香りのする羽織を血で汚すのは気がひけたが、

浪士が斬りかかってきたため気にする暇は無かった。





 そうして、夜は明け新選組の隊士では1名が死亡、5名が重傷を負い、

その中の2名は重傷により後に亡くなる事になる。


この事件はカンナの予測した通り「池田屋事件」と呼ばれた。




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