和泉守兼定 其の一 ~信じるは仲間~
「・・・そろそろか・・・。」
土方は、副長室で一人つぶやいたつもりであった。
「何がです?」「何がだ?」
沖田とカンナがひょいと現れる。
「・・・いや。この刀もそろそろ換え時かと思ってな。」
土方は、ひんやりとした刀身に名残惜しく触れる。
「ふーん。ずいぶん、その刀も痩せたな。
そういえば、それって和泉守兼定だよな?」
「あぁ。11代目だ。」
すると、沖田は首を傾げる。
「あれ?敢菜のも和泉守兼定だよね?」
「あぁ。12代目だ。」
カンナは考えていた。
本当のことを話すべきか否かを。
「・・・なぁ、俺は、みんなに信用されてるのか?」
「いきなり何さ。当たり前だよ。」
沖田は少し心配しているようだった。
何故カンナがいきなりこんな事を聞いてきたのか・・・。
「・・・俺さぁ、みんなにまだ隠してることあるんだよね。・・・実はさ。
信じて欲しいなんて思ってない。 ただ、隠してなんかいたくないから。」
カンナは話そうと決意した。
・・・あぁーあ。
話さないって決めてはいたけど、やっぱりきついな。
「とりあえず、トシには知っておいて欲しいことがある。」
土方は真っ直ぐな黒い瞳をカンナへと向ける。
「俺の生い立ちと、俺にあった出来事のことだ。
俺は、普通の家庭に生まれた。
母親は異人で父親は日本人。俺が育った所では俺みたいな異人と日本人の混血も珍しくはない。
俺の家系は武士の家系だった。まぁ、昔は百姓だったようだけど。
だから、俺にも姓はある。
ずっと、隠してきた。本当はずっと隠しておく予定だったけど、どうやら俺が帰れる見込みもないし。
・・・俺の名、・・・いや、あたしの名は、土方カンナ。
れっきとした土方歳三、あんたの子孫。」
歳三は眉間に濃い皺を寄せて無言でいた。
沖田は首を大きく傾げてカンナの瞳の奥を探るようにカンナの瞳を見つめていた。
「私は、今から145年、後の人間になる。
この和泉守兼定も、あんたが遺したものだ。
祖父の家には、あんたの持っていたものがたくさんあった。」
「例えば?」
沖田は、真実かどうかと探りを入れる。
「例えば、トシが姉さんに送った文とか、実家に送りつけた大量の芸者からの恋文とか、
あとはこの刀とトシが今持ってる和泉守兼定11代目とか、あとは豊玉発句集とか。
今は、これぐらいしか言えないけど、他のものもあった。」
沖田は、カンナの瞳を見て黙り込む。
「お前は、知っていたのか。
山南さんのことも、平助や斉藤のことも。・・・池田屋の時も。」
「うん。」
「そうか。」
土方は、妙に納得したように目をそっと伏せる。
常に人を疑い、人に自分に厳しくしてきた土方が珍しく大人しくしているのを沖田は困ったように笑う。
「お前は、山南さんがいなくなる前の日の夜に訳のわからねぇ涙を流した。
それから、誰にもまだ言っていなかった平助と斉藤の離隊も知っていた。
伊東さんは、そのことを言ってなんかいねぇのに。平助も斉藤もだ。
・・・池田屋のとき、お前は言ったな。俺がじきにここ(池田屋)に来ると思ったーって。
俺は不思議でならなかった。 お前がこんなにも先のことを知って行動出来るのは何故かとな。
探らせても、変な行動一つととらねぇ。・・・もう、信じるしかねぇだろうが。」
「えっ?信じてくれるの?」
「あぁ。」
「あの現実主義のトシが?」
カンナが信じられないというように漠然としていると、沖田は面白そうに笑う。
「ははっ!土方さんも、嘘か本当かを見分けられないほど馬鹿じゃないでしょ。
それに、なんか納得したなぁ。
カンナって、なんか不思議な存在だったんだよね。
なんていうか、ここの空気とカンナの空気が違うなってちょっと思ってた。
ちなみに、カンナと土方さんの表情って似てるし。」
「「あ?」」
「ほら、二人とも眉間に皺寄ってるよ。」
カンナは赤くなって下を向いた。
そして眉間の皺を伸ばすようにして人差し指を眉間にあてる。
「やめてよ・・・総司。トシと似てるとか・・・最悪。」
「誰が最悪だって?」
歳三の眉間の溝が濃くなる。
それを見て沖田とカンナは早急に立ち去った。
その後、歳三は嬉しそうな笑みを含めながら、疲れたように息を吐いたのだった。