己の道
カンナは日に日に笑顔が増えていった。
「いやぁ~。・・・敢菜ちゃんはかわいいねぇ。」
「あぁ。妹みてぇだな。」
永倉と原田は夕餉を運んでいるカンナを遠目で見ていた。
カンナは桃色の新しい着物を着て、そんな視線を感じながらもせっせと働く。
「なぁ、左之。敢菜ちゃんって、異人だろ。」
「ん?・・・そうだな・・。あ、いや・・・日本人じゃねぇか?」
「あ?・・・お前の目、犬か?ちゃんと色見えてっか?
あの金の髪と金色がかった目を見ろ。どう見たって異人じゃねぇか。」
永倉は異人だと言い切った。
しかし、原田は未だ納得出来ないでいた。
「左之?」
「・・・日本人だ。」
原田もまた言い切った。
「はぁ?・・・きいてみっか・・・。絶対異人だ。」
夕餉を食べながら永倉と原田は問いつめた。
自分が正しいと確かめるべく。
「あぁ。そんなことをさっきから話していたの?」
「・・・聞こえてたんか。・・・地獄耳・・。」
永倉はカンナの恐るべき聴力に驚いていた。
「私は、れっきとした・・・ハーフよ。」
「・・・はー・・ふ?なんじゃそりゃ。」
原田は聞き慣れない言葉に首を傾げた。
永倉もだ。
「あ。・・・えっと、異人と日本人との子ってこと。」
どちらとも合っていたというべきか・・間違っていたというべきか。
二人はため息を吐いた。思いもよらなかったことだった。
「ま、そうだよね。」
総司はわかっていたと言うようにニコッと笑った。
歳三も驚いた風もなく黙々と食している。
同じく斉藤もだ。
「あ、ねぇねぇ一ちゃん。あとで試合しよ。」
「・・・俺ではもの足りぬのではないか?」
「ん?一ちゃんは強いもん。稽古見てたらわかる。」
カンナと斉藤は永倉と原田の二人を放置して話し出す。
「なんだと・・。俺の稽古を?・・・いつだ。」
斉藤は眉間に深い皺を寄せてカンナを睨みつける。
そんな睨みを向けられながらも、恐れることなくカンナはニヤリと得意げに笑った。
「そんなの、いつもに決まってる。
毎晩、みんなが寝静まった頃、一人庭で刀振ってる。」
斉藤は、気配に敏感で、総司の隠している気配にすらも気付く。
しかし、カンナの気配だけは感じ取れなかったようだ。
「あははははっっっ!・・一君、カンナちゃんにやられたね。」
総司は耐えきれないと大声で笑い、他の幹部は皆箸を止めてカンナを見ていた。
「敢菜。・・・あんたはどれほど強い?」
「さぁ・・。試合すればわかるわよ。でも、きっと一ちゃんには敵わない。」
そう言うカンナに総司はふふっと笑った。
「敢菜くん・・君はおなごなのだろう?」
局長の近藤は疑問を持っていた。
この時代、女が剣を持つのは普通では無いからだ。
「勿論。」
「あれっ。近藤先生覚えてないんですか?」
総司はからかい気味に言った。
「ん?」
「以前、会ったでしょう?・・・ほら、池田屋の時に。」
「あぁっ!・・そうかそうか!・・君はあの時総司を助けてくれた!」
近藤はスッキリした清々しい笑顔で立ち上がった。
「はい。そうです。」
カンナも思い出してくれたことが、どことなく嬉しかった。
「やはりそうか!!あの時は、何とも肝の据わったおなごだと思ったよ。」
「女なのに会津の応援を口で負けさせちまうし、おまけに自分から血生ぐせぇ池田屋の
中に飛び込んでいっちまうしな。ったく。女じゃねぇ。」
歳三は愚痴を吐くように言ったが、うっすらと笑っていた。
この時代、こんなにも男らしい女が居ただろうか。
いや、ずっと先の時代でもそんな女はいない。
「ぁぁ・・・。敢菜は俺らよりも男なのか・・・。」
藤堂は小さく苦笑いをしながらつぶやいた。
「敢菜ちゃん、そんな事もしてたんだ。僕よりも活躍したみたいだね。」
総司は口元だけで笑った。
「失礼ね。男男って。私は女よ。」
カンナはふくれて機嫌を悪くした。
女だからとなめられるのも嫌がるが、女としては男と言われるのも嫌がる。
カンナはふくれたまま夕餉を食べ終わり、すっと立ち上がった。
「一ちゃん、食べ終わったら すぐに! 庭へ来て。
刀を忘れずにね。・・・真剣で殺るから。・・・ふふっ。」
カンナは黒いオーラを放ちながら去っていった。
「・・・一君、生きて帰ってきて・・・ね?」
総司ですらもああなってしまったカンナを前にしては動けない。
斉藤は息を呑んでから、食べるスピードを早めた。
(・・・・殺る・・・殺る・・・・・? 殺る・・殺られる・・殺られる・・・-)
斉藤の心の中は負のイメージでいっぱいだったという。
斉藤は夕餉を食べ終えてしまい、戦場へと向かい、幹部らもそこへと向かった。
庭に居たのはニヤリと不気味に笑うカンナだった。
斉藤は死ぬつもりでかかった。
しかし、斉藤の負のイメージもあってか、結果は斉藤の完敗だった。
圧勝したカンナは機嫌を取り直した。
「ありがと。一ちゃん。・・楽しかったよ?」
カンナは可愛らしく笑って、後ろに倒れている斉藤の手を取って起こした。
斉藤は死ななかったものの、カンナの本当の恐ろしさを知った。
「俺もだ。・・あんたは予想以上に強かった。・・・またそのうち頼む。」
斉藤はまた立ち向かうと決めた。
組長として、負けるわけにはいかないのだ。
「勿論。」
「そうそう、トシ。一つお願いがあるの。」
「・・・なんだ。」
恐ろしいカンナを見た後では、鬼の副長もびびった。
「私を、新選組の隊士にして。」
「ぁあ?・・・無理にきまってんだろ。女人禁制だぞ。」
「トシ。私ってみんなが言うには男なんだって。そうだ。トシ自身で私の実力
試してみる?・・刀、抜いてこっち来て。」
またもやカンナのオーラが黒くなり始めた。
「わかった!・・考えておく・・。」
「そう?私できれば一ちゃんの隊がいいな。」
カンナは明るく笑って一人部屋に戻っていった。
カンナは部屋に戻ってため息をついていた。
カンナがあそこまで怒ったのも、強い斉藤と試合をしたのにも
しっかりと理由があった。
カンナは随分前に決めたのだ。
死に場所を探すと。戦に出なければ、争いの最前線に出なければ、永遠に死に場所など
見つかりはしない。
つまり、今までは隊士になる為の演技であり、計画だったのだ。
そんな計画に皆あっさりと騙されたようだった。
「自分の進む道は自分で選んで、自分で作る。・・これ鉄則。」