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北へ・・・   作者: Haruka
23/51

生きている理由



 カンナが大切な家族を無くし、その翌日のことだ。

カンナは夜明けにたった一人で空を見上げていた。

空は雨が降っていたことが嘘のようにからりとしていた。

まだ薄暗く夏だが肌寒いくらいだ。


一人で居ると涙が出てくる。

3人で居るのがもう慣れてしまっていて、一人は耐えられなくなってしまっていた。

トシは強いなんて言ったけど、私は弱くなったとしか思えない。2012年に居た頃よりずっと。

一人で生きていくことが出来なくなってしまった。

以前は一人でも全然大丈夫だった。

それは、愛を知らなかったから。寂しいなんて感情なかった。


今更だけど思う。

私は何のためにここへ来て、何のために通武やかつさんと出会ったんだろうって。

本当は地球が滅亡したときに死んでも良かった。

その方が楽だったと思う。こうやって苦しまなくても良かったし、弱くもならなかった。

強いままで居られた。この手を血で汚す事も無かった。



「どうして・・・どうして・・・・・・もう嫌なの。」



お願い。

あの時へ帰して。そしたら死ぬときに一緒に苦しみも痛みも全部全部無くなるから。



「お願い・・・死なせて・・・。」


「ならば、あんたは何故まだ生きている?」


「斉藤さん・・・・。」


「何故だと問うている。」


どこからともなく厳しい声音をした斉藤が庭を眺めながら隣りにやってきた。


「そんなの・・・生きろって言われたからっ。

・・・かつさんが自分の命を投げ出してまで救ってくれた命だから。」


「そんなことなど考えなくとも良いのではないか。

自分の人生であろう。生きるも死ぬも己次第ではないのか。

他人に自分の人生を変えられるなど気持ちの悪いことでしかない。」



斉藤の言うとおりだった。

でも、カンナにはやはり自分の命を自ら絶つなど出来はしない。

それは何故なのか。



「私は弱い。本当は恩を感じてる訳じゃないの。

自分で命を絶つのも怖い事でしかない。

だから恩があるからってそれを言い訳にして生きてる。弱いだけなの。

・・・情けない。」



「自分で命を絶つのが怖いというのも生きる理由になりうる。

俺もそうだ。戦場に足を運んでは、その度に己の死に場所を探している。

だが、何処へ行っても生き延びてしまう。

それは、そこが己に相応しい死に場所ではないからだ。」



     死に場所


それには悲しい響きがあった。

しかし、カンナにはその響きが今の自分には合っている・・そう思った。




「私にも死に場所はある?」


「死に場所のない奴などいない。

しかし、なかなか見つからぬやもしれぬな。」


カンナは自分はそんなにすごい者ではないと考えている。


「さすがにお前の刀に見合う死に場所は少ないであろう。

ましてや、そこらの浪士に倒されたのでは兼定も満足出来ぬに決まっている。」



斉藤は目を微かに細めた。


この人は、私の心の中をいとも簡単に透かし見てしまう。

それがなんだか嬉しくもあり、心地よくもあった。



「あんたとはそりが合いそうだ。」


「ありがとう。私も死に場所を探す。

他の人から見たら悲しい奴だって思われるだろうけど、

それが私の生きる理由だから。」


カンナは久しぶりに清々しい笑顔を見せた。

すると斉藤も口の端を微かに上げた。





「少しばかり良くなったようだな。手も完治しているのだろう。

気力があるのならば朝餉の準備を手伝え。」


「ばれた・・・。それにしても斉藤さんって家事やるのね・・。驚いた。」


カンナはこちらに来てからは小さな切り傷などはあっという間に治る様になった。

そして、斉藤は驚かれた事で眉間に皺を寄せた。


「他人の作る飯は信用できんからな。

他人・・・いや、素人のつくるものなど食べる気にならん。」


この言い回しから、何か変な物を食べさせられたのか・・・・?

しかし、自らの手で自分の思うように作るとは斉藤さんらしい。

他人のつくるものを食べないというのは周りから見れば、浮いて居る者なのだろうが、

斉藤さんの場合は、舌が肥えているというだけだろう。

この人は言葉足らずなのだ。これでも、言葉を選んでいるのだろうが。


「安心して。私は素人じゃないんだから。」


これでも茶屋で人気だったのだ。

お客さんは皆おいしかったと笑顔で帰っていった。

斉藤さんの腕がどれほどかは知らないが、私も劣ってはいないはずだ。



斉藤さんは静かに歩いていった。

私も大げさに巻かれた包帯をしゅるしゅるとほどきながら後に付いていった。










朝餉の準備に実際に取りかかってみると、斉藤さんは思った以上に料理上手だった。

まぁ、私ほどではないけれど。

朝餉の準備をしていると、結局斉藤さんとトシは

最後までお店に来てくれなかったことを思い出す。

良い機会だと思った。



料理上手な斉藤さんと作った朝餉はかなりいいものになった。

勿論、新選組幹部の方達も目を丸くしておいしいと言ってくれた。

しかし、ご飯のおいしさよりも、私が普通に斉藤さんと笑って話し、それに斉藤さんも

言葉を返していることに一番驚いていたようだった。

斉藤さんは元々幹部の中でも浮いているから余計にだろう。

後から聞いたのだが、永倉さん曰く、斉藤さんは隊士にはいつも強烈な殺気を放っている

から、誰も近づこうとはしないらしい。

斉藤さんが浮いているのは言葉足らずというだけではなかったようだ。










「ねぇ、斉藤さん。下の名前で呼んでも良い?」


「呼び方などどうでも良い。」


・・・どうでも良いってことは、どう呼んでも良いって事・・・だよね。


「じゃぁ、一ちゃんって呼ぶから、ちゃんと返事してね。」


「やめろ。」


「もう決まっちゃったから。一ちゃんがどうでも良いって言ったのが悪い!」


カンナは満面の笑みで笑った。

カンナと斉藤はこの一日で周りが驚くほど仲が良くなった。

それには、流石の総司も驚いて、不機嫌になったほどだ。

永倉らなんかは、斉藤の殺気を放つ時間が減ってほっとしている。



カンナに本当の笑顔が戻った。

そのことに歳三も安心し、斉藤に感謝した。しかし、その反面で、

何処かじんわりと熱くなるような悔しさも感じていた。









































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