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北へ・・・   作者: Haruka
18/51

一の俊才


 あっという間に月日が経ち、七月の早朝カンナは縁側でお茶を手に

何かを深く考えていた。


「はぁ・・・。どうしよ・・・。」


「敢菜さん?どうなさったんです?」


隣で同じように茶を飲む通武も心配してカンナの顔をのぞき込む。

カンナも通武の顔を見つめる。

すると通武は急に困った顔をして瞳を潤わせた。

そしてふいっと顔を逸らしてしまう。

カンナはそんな通武を可愛らしく愛しく思った。


通武は大人だが子どもだ。

いつもは大人びた優しい笑顔を見せるのに、時折、子どものように照れたり、

カンナが意地悪をしてみれば、頬をほんのり赤らめてふくれる・・と思えば、

急に無邪気に笑ってみたり、ただの遊びに夢中になってみたり。

確実にカンナよりも年上ではあるのだが、どうもそうとは思えない。



「・・・通武ってさ、剣術出来るわよね。」


「は?・・・・・えぇ、まぁ・・。」


「それならさ、ちょっと付き合ってよ。腕なまっちゃってるから。」


カンナの悩みはこれだった。

最近は店が忙しくて鍛錬も出来ないのだ。

腕も鈍る。


「よろこんでお付き合い致しますよ。せっかくの、休業日ですからね。」






 カンナたちは竹刀を持たないために、庭で真剣を構えた。


「ねぇ、・・・私さ、貴方の本名まだ知らないの。」


通武は動揺しているのか瞳を揺らしている。

カンナは知りたかった。

正体を知ってどうこうという訳ではない。

ただ純粋に信用されているという証が欲しかった。

通武がどんな人物だとしても追い出そうとは思わない。

どんな人物でも、通武は今まで一緒に過ごしてきた家族だ。

何があっても守りたい。


「・・・それは・・」

「私は信用ない?」

「そんなことはっ。・・!」


「じゃあ、教えて。・・・私も教えてあげる。」

「・・・え?・・・・なぜ・・・」


何故女である私が偽名を使っているか?

・・・それは、私自身、この時代に生きてはいけない人間だから。

だから、未来には居ない架空の人物になろうとした。

まずは名前だけでも。



「私は・・・土方カンナ。カンナは漢字じゃなくてカタカナなの。」


すこし、不安だった。

土方という名字はそうそういるもんじゃないし、土方歳三は有名だから。

親戚かと思われるかも。

でも、信じてみようと思った。通武が私を拒絶するはずないって。


「・・・カンナさんは私を信用してくださった・・・・こんな私を。」


通武は願った通り拒絶なんてしなかった。

だって、優しく嬉しそうに笑ってる。


「私もお教えします。・・・私は、・・・













私は・・・・    久坂玄瑞 と申します。・・・」



あぁ・・・そうだった。

通武という名は久坂玄瑞の改名前の名だった。

ずっと思い出せないでいたけれど。



「そう。・・・ありがと。信用してくれて。貴方は、もう私の家族。」


「え?・・・驚かないのですか?」


「うん。なんとなく、そこら辺の人だろうな・・とは思っていたから。」


玄瑞は困ったように笑った。





「では、今一度、参ります。」


カンナは急に地を蹴った。

あっという間に玄瑞の正面まで来てしまう。


「なっ!・・・くっ」


さすが長州一の俊才・・・久坂玄瑞。

どんなに不意打ちでもすぐに反応して防いでくる。


「ふふっ。やばい!・・楽しいかもっ!」


剣術を楽しいと思ったのは久しぶりだ。

この時代に来てからは本当に人斬りばかりで、正直きつかった。

重かった。たった一人の命がこんなにも重く儚いものだと初めて知った。

家族の大切さも初めて知った。

初めてが多すぎて頭がついていかないけれど、確かなのは、前よりも幸せだって事。

笑っていられるって事。


「ふっ・・。・・・カンナさんはお強い!誠に女子でございましょうか!?」


玄瑞は笑ってる。

私も笑ってる。


「失礼ね!そのうちっ・・強い女が流行るわよ!」


「そうでしょうか!?」


庭で刀がぶつかり合う音が心地よく響く。




結局、決着は付かなかった。

でも、やっぱり私が押されていた時間の方が長かったと思う。


「はぁ・・・つっかれたぁ・・・。」


「そうですね。それにしても、カンナさんがこれほどまでとは思いもしませんでした。」


「女は馬鹿に出来ないね。」


「ははっ。えぇ。そうですねぇ。気を付けましょう。」



庭で打ち合ったのはいいが、刀のぶつかり合う音に、かつさんが物騒だと言って

二人して子どものように叱られてしまった。

でも、気持ちがよかった。

誰かと汗を流して、叱られて、笑い合って。

私は幸せな時間を過ごしていた。




しかし、私はどうして気が付かなかったんだろう。

玄瑞にだんだんと近づいてくる悪魔の足音に。

いつまでも幸せは続かないととっくに分かっているはずなのに。









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