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北へ・・・   作者: Haruka
17/51

故郷の味




私が新選組の屯所を訪れてから早六日。

この時代に来てからも随分経った。




それにしてもちょうど夕飯時だからお客はだんだんと増えてきている。

6月というのもあって京の町は夏の気候になり始め、仕事もきつくなる。



「「いらっしゃいませ!」」 「おおきに。」



私たちの元気な声がお店に響く。

それはとても気持ちがよい。バイトなんてものはたったの一度もしたことはないから

働きがいがあるということがこんなにも楽しい事だとは知らなかった。



「邪魔するぜ。」



お店に訪れたのは3人の男性客。

皆若い方だったが、特に小柄な方は少年の様な明るさと無邪気さがあった。


そのお客が席について一息吐いたのを確認してから注文を取る。それは常識。

まずはお店の雰囲気に慣れてくつろいで貰わなければ。




「いらっしゃいませ。ご注文はどうなさいますか?」


「・・・んー・・・あんたのお薦めで頼む。」

「俺も!!」

「同じの頼む。」



この店は初めてのお客だ。

最高においしいものをお出ししたい。

それでもって、口に合う物を。それがかつさんのモットー。

そんな細かい気遣いがあるからこそ常連客も多い。



「あの、つかぬことをお聞きしますが出身は・・・」


こう言ったとき、たいていの人は私を疑う。

長州や薩摩、土佐の人なんかは特に。



「・・・ん?出身か?・・伊予だが・・。」

「俺は松前だ。」

「俺は・・・江戸。」



「わかりました。では、少々お待ち下さい。」



私は早くつくってしまわねばと急いでいた。


「なぁ、あんた、もしかしてこの前新選組の屯所に行ってなかったか?」


その時は急いでいたから答えるヒマも無かった。

そうだと言うように笑ったつもりだ。

近くには通武もいたから言ってしまったら誤解を招く気がした。










「どうです?敢菜さん、もうできてますか。」


「えぇ。今できたわ。通武さんはあの常連さんに持っていって。」



念のため、通武はあの3人の客から遠ざけた。

同じ長州や薩摩関連の人の可能性もあるけど、新選組の可能性だってある。

なんだかんだいっても、私は通武を手放したく無いのかも知れない。







「お待たせしました。私のお薦めでよろしいですね。」


「あぁ。・・・おっ。うまそうだな。」


そういえば、この人はよく見てみると男前かもしれない。

それに、槍を持ってる。

私は槍にも結構興味がある。

・・・確か、新選組だとすれば十番隊組長の原田左之助が当てはまる。

出身が伊予で槍術を使って。




「うわっ。うまっ・・・。」



少年が一言漏らしているのを聞いて私は嬉しくなった。

ここでご飯を作っているとたくさんの人がおいしいと言ってくれる。

それは今までにない感覚だ。



「これはうめぇ。食ったことのない味だがしっくりくる。」


おかしい・・・。

間違えてしまっただろうか。

この人は松前の出身では?松前の味付けで出したはずだ。


「申し訳ありません。松前の味付けのはずが・・・。」


「ん?あっ・いや・・・・そういうわけじゃあねぇんだ。」


どういう訳であろうか・・・。

間違って」いるのならば、ハッキリといってほしい。


「そうだな。こいつの場合、生まれは松前だが、育ちはほとんど江戸だからな。

気にするこたぁねぇと思うぜ。」


原田左之助っぽい人がそう言う。

・・・そうだったか・・。

今度からは育ちは何処かと聞かなければいけないかもしれない。



「そうかぁ・・・これが松前の味か・・・。」


しみじみと独り言を言っているのを聞いていると、私も北海道の街並みが少しだけ

恋しく感じる。まだ平和だった頃の街並みだ。





「それにしたって、ここは良い店だな。繁盛してるのも分かる。」


「ほんとそうだよなぁ!江戸の飯なんて久しぶりに食ったぜ。ちょうど京の飯には

飽きてたんだよ。」


「うまかった。またよろしくな。」



なんとか喜んでもらえたようだ。

少し勘違いはあったものの、松前の味は口に合ったようで。



「はい。またいらして下さいね。」


「おう。・・そういや、さっきの質問には答えてくれねぇのか?」


どうやら、さっきの笑みでは分からなかったらしい。

どうするべきか・・・。



「貴方は、新選組の組長さん?」


まずはここから。ヘタに言ってしまうと後がきつくなる。

こちらとしても向こうとしても慎重にことを進めるのがいい。


「あぁ。・・・そうだが。」


「原田左之助さん・・とか?」


「あたりだな。・・・・で?」


どうしても答えを聞きたい・・。

そんな顔をしている。




「・・・土方さんと沖田さんと斉藤さんはお元気?それから、山崎さんも。」


山崎さんとは一度しか会っていない。

池田屋の前で一度伝令として会ったっきり。


原田さんは笑った。

それはもう無邪気に。

何が面白いのかは知らないけれど。


「あんた、とんだ変わり者だな。鬼副長と新選組一、二の剣客と恐れられる総司と斉藤なんかとこわがらぇで付き合うなんて、そこら男でもなかなか出来ねぇぜ。」


「やっぱりあの時の子なのか!」


「俺でもあの鬼副長と関わるのはゴメンだ・・・。」



新選組の中でもそんなに恐れられていたなんて驚きだ。

土方さんは不器用だけど優しい普通の男だと思うのだけど。

沖田さんだって、性格は子どもっぽくて憎めない。

斉藤さんも一見冷たいように見えるけど仲間思いなところがある。

仲間思いなひとが悪い人なわけはない。



「優しい人よ。そうそう、疲れてるみたいだったから時々休ませてね。

それと、沖田さんにもお大事にって伝えて。」



「ははっ。かみさんみたいだな。」


そうなのか?・・・

私には親なんていないようなものだったから分からない。


「あと、土方さんと斉藤さんには一度お店に来てって伝えておいて。」


使いっ走りみたいだけど、きっとコミュニケーションを取るきっかけにもなる・・はず。

山崎さんはいつものように来てくれてるし。(多分監視でも頼まれてるのだと思うけど。)

沖田さんは暫く養生の筈だから来てなんて言えないし。



「わかった。しっかり伝えとくから安心しろよ。・・・あと、俺は原田左之助だ。」


急に言うものだから少し対応出来ないで居た。


「俺は藤堂平助!」


「永倉新八だ。また、松前の味、頼むな。」


原田さんは何となくで分かったけれど、他の二人も幹部だったんだ・・・。

・・・藤堂さんって・・こんなに若かったんだ・・。


「私は敢菜です。伊予の原田さんに、江戸の藤堂さん、それから松前と江戸の永倉さん

ですね。また、いらっしゃってください。」




3人は勘定を払って帰っていった。

なんだか、3人ともご機嫌で・・・。

そんな後ろ姿を見ていると、私自身の気分もすごく良く感じた。











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