武士
カンナは、今、あの鬼の部屋ですっと背筋を伸ばし、座ったところだ。
先に座り、カンナの様子を見ていた歳三は、どこか違和感を感じていた。
カンナが自分の左側に刀を静かに置く仕草は本物の武士よりも武士らしい何かがある。
ただの女ではなかったのか。
「さて、お話・・・とは?」
カンナは歳三の目を真っ直ぐ見て先手を取った。
歳三もカンナの目を真っ直ぐと見ている・・・というよりも、睨みつけている。
歳三は見極めているのだ。
カンナが信用できるか出来ないかを。
そして、敵か、味方か。
「お前は、俺に会うために池田屋に居たんだったな。
どうやって、潜入した? あそこはあの日、貸し切りで他人のお前には入れなかった
はずだ。」
「巻き込まれたのよ。桂小五郎に無理矢理連れていかれたの。」
カンナは、桂の顔を思い出し、深くため息をついた。
もう、祖先だろうが、何だろうが敬語は嫌になってしまった。
「やっぱり居やがったのか。・・・だが、なんだって敵か味方かわからねぇ奴を・・・。」
「・・・ただ、珍しかったんでしょ。私が・・・。」
カンナは結い上げた金色の髪を撫でた。
やはり、この世界で、それも日本で、この容姿は異質なのだ。
日本人でもあり、イタリア人でもある。
外国を打ち払おうと言っているこの幕末で、カンナの様なハーフなど居るだろうか。
居るとしたなら、きっと周りからは色々と言われていることだろう。
なんだか空気がしんみりとしてしまい、カンナは話を変えた。
「あぁ、ところで私ね。今、池田屋の近くにある藤ってお茶屋で働かせてもらってるの。
良かったら、そのうち寄ってって。私の作る自慢のご飯、食べさせてあげる。」
カンナは自然と笑顔になっていた。
少し血の臭いが漂っているけれど、この幕末の世はあまりにも綺麗だから。
それに、少し懐かしい気がするの。この町の雰囲気とか。
カンナはこの時代に来たことを嬉しく思った。
「藤?・・・あぁ、あのちいせぇ茶屋か。時間があれば、寄ることにする。」
「うん。・・・・・あと、私いつでも新選組の力になるから。
もし、力が必要になったら声かけて。」
カンナは新選組が好きだ。
脱藩者や百姓、町人の多い新選組だが、金を稼ごうと考えていようが、お上の役に立とうと考えて
いようが、どちらも同じ。自分にとって大切な者を守ろうとしている。
そういう所が好きだ。
よほど想っていなければ、規律が厳しく、さらに多く危険が伴う新選組には入らないだろう。
一人一人が命をかけて大切な者を守っているから、だから手を貸したいと思う。