第9話 レオンの査問会議
一方、アウスヴァルト帝国では、停戦合意を無視し、国境を侵犯したレオン・ハルトマン中尉をめぐって、重苦しい空気の中で査問会議が始まっていた。長机の片側には主戦派、もう一方には穏健派が並び、両陣営の視線が中央に座る若き中尉へと注がれている。
「中尉、貴様の行為は停戦合意を踏みにじるものだ!」
穏健派の将官が机を叩き、激昂した。
「この一撃で帝国は国際的な信用を失う!お前は自らの血気で、全軍を危機にさらしたのだ!」
即座に主戦派が反論する。
「信用など幻想にすぎん!四十五年前の大戦から、我らは敗北の屈辱を押し付けられてきた。その鎖を断ち切るのが、ハルトマン中尉の勇断だ!」
賛同の声が広がり、議場は騒然となる。
レオン中尉は黙っていた。背筋を伸ばして座ってはいるが、机の上に置いた拳はわずかに震えている。
(俺は……ただ命令どおり動いたはずだ。だが、この会議はなんだ。俺だけが悪いのか?)
戦場で散った仲間の顔が脳裏に蘇る。彼らを正義の名で弔うには、あまりにも言い訳じみていた。
(俺は……間違ったのか? それとも、これでよかったのか?)
「停戦を無視すれば、帝国は孤立する!」
「いや、力を示せばこそ、列強は恐れ従う!」
主戦派と穏健派の罵声が飛び交うたびに、若き中尉の胸は締め付けられる。
自分にとって戦場はただ生き延びる場所であり、政治の駆け引きなど考えたこともなかった。だが今、言葉の戦場のただ中に放り込まれ、彼はかつてない居心地の悪さを覚えていた。
やがて議長が木槌を叩き、場を鎮める。
「結論は持ち越す。だがレオン・ハルトマン中尉――お前の行為は帝国の未来を左右した。背負う覚悟はあるのか?」
その問いに、中尉はうつむき、小さく息を吐いた。答えはなかった。
胸の奥でただひとつ、答えの出ない問いだけが鳴り響いていた。
(俺は……誰のために戦っている?)
会議ではレオンたちを攻撃してきた謎のフレームの話題は殆どでない。
あれこそが帝国の脅威となるはずであるが、この場は主戦派と穏健派の権力闘争の場になっており、脅威など見向きもされていなかった。
そして、レオンの処分が決定する。後方での書類整理任務。
これが決定したことで、軍法会議にかけられることは無くなったが、同時に軍人としての人生も終わった。フレームに搭乗することなく、定年まで書類の山に埋もれるのだとレオンはその将来を想像した。




