表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェニックス計画――老兵たちの夢と若き継承者――   作者: 工程能力1.33


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/25

第3話 かつての夢の結晶

 山道を駆け下りるカイの視界に、意外な光景が飛び込んできた。

 ――ガルドが、逆に山の斜面を駆け上がってくる。


「じいちゃん!? なんでこっちに――」


 その言葉が終わるより早く、ガルドのすぐ横で地面が爆ぜた。

 爆炎と土煙が弾け、破片が飛び散る。

 ガルドが片膝をつき、苦痛に顔を歪める。


「くそっ……やられた……!」


 カイは慌てて駆け寄り、肩を貸した。


「立てる? こっちへ!」

「……ついて来い、カイ。あっちだ!」


 ガルドが指し示したのは、山肌に隠された古い鉄扉。

 半ば土に埋もれたそれを開けると、冷たい空気と油の匂いが漂ってきた。


――――


 中は、厚い鋼板で覆われた地下壕だった。

 奥の照明がゆっくりと灯り、巨大な影が姿を現す。

 そこにあったのは、古めかしい装甲と無骨なフレームを持つ人型機――《フェニックス》。


「これはフェニックスというフレームだ……」


「……フレーム? こんなの、村に……」


 ガルドはカイを近くの簡易ベンチに座らせ、自分の足を手早く応急処置する。

 片手で包帯を巻きながら、もう一方で壁際の古い通信機を二つ取り上げ、その一つをカイに手渡した。


「カイ……このフェニックスに乗れ」


「……えっ? 無理だよ! 俺、操縦なんて……」


 ガルドは、諭すように、しかし目を逸らさず言葉を続けた。


「こいつは45年前、この国を救うために作られた。だが、停戦で日の目を見ずに封印された――我ら一族の誇りだ」

「誇り……?」

「そして今、この国を救えるのは、こいつだけだ」


 カイは首を横に振った。


「でも……俺は戦うなんて……」


 その瞬間、ガルドは通信機を握ったまま立ち上がろうとした。

 血が滲む足を引きずりながら、フレームへ向かう。


「なら……俺が行く」


 その背を見た瞬間、カイの胸が締め付けられた。

 痛々しい足取り。

 それでも進もうとする背中に、恐怖よりも別の感情が込み上げてくる。


「……待って!」


 カイは深く息を吸い、拳を握りしめた。


「俺が行く……フェニックスに、乗る!」


 ガルドは振り返り、口の端をわずかに上げた。


「……そうだ、それでこそ俺の孫だ」


 コックピットのハッチがゆっくりと開き、鉄と油の混ざった匂いがカイを包み込む。

 中は最新式のフレームとはまるで違う――無骨な計器、磨き込まれた真鍮製のスイッチ、革張りの操縦席。

 表面には使い込まれた擦り傷が無数に走り、まるで歴史そのものがそこに刻まれているようだった。


 足を踏み入れた瞬間、金属板が軋み、低く響く音が胸に伝わる。

 座席に腰を下ろすと、身体を包み込むような硬い感触と、心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる静けさがあった。


「シートベルトを締めろ、左側のレバーだ」


 外からガルドの声。カイは指示に従い、太い革製のベルトを肩と腰に固定する。


「……いいか、こいつは普通のマナダイトじゃ動かん。お前の……その血だけが、この心臓を動かせる」

「俺の……血?」

「お前の一族は、空気中からフロギストンを生成できる。エンジンにそれを供給しろ」


 ガルドが示すのは、操縦席脇にある古めかしい注入装置。

 カイは半信半疑で、深く息を吸い込む――そして、吐き出す。

 その息は、わずかに揺らめく光を帯び、金色の霧となって装置に吸い込まれていった。


 次の瞬間、計器類が一斉に明かりを灯し、深く重い唸り声がコックピット内を満たす。

 振動が座席から背骨に伝わり、鼓動と重なる。


「動いた……!」

「まだだ。右手のスイッチ群、赤いカバーを外して起動キーを押せ」


 指先が金属の冷たさを感じながら赤いカバーを跳ね上げる。

 キーを押し込んだ瞬間、全身が震えるほどの重低音が響き、計器の針が一気に跳ね上がった。


 フェニックスの両眼にあたるカメラアイが、眩い金色の光を放つ。

 エンジンルームからは、燃焼と鼓動が一体となったような重低音が響き、わずかに青金色の熱気が吹き出す。


「……これが、フロギストンエンジン……」

「そうだ。こいつは、お前の意志に応える。だから、迷うな」


 カイは深く息を吸い、操縦桿を握りしめた。

 手の中で確かな重みと温もりを感じる――まるで機体が生き物のように脈打っている。


 ガルドの声が、低く力強く響く。


「行け、カイ。……この炎で、村を守れ!」


 フェニックスの駆動音が一段と高まり、血で受け継いだ炎が戦場へと歩み出した。

 その胸の奥には、カイ自身が灯したフロギストンの炎が燃えていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ