第27話 嫉妬の炎激しく燃える
朝靄の残る訓練場。フレームの点検に向かう整備兵たちの声が響く中、カイは花を抱えて足早に通路を進んでいた。
その姿を見つけたミリアが、壁にもたれたまま腕を組み、鋭い目で彼を呼び止める。
「……また病院か」
カイは立ち止まり、曖昧に笑った。
「クレアさんはまだ怪我が治ってないからな。少しでも――」
「少しでも、ね」
ミリアは口の端を歪め、冷ややかに言葉を被せる。
「帝国の捕虜に毎日花を持っていく兵士なんて聞いたことない。……王国の切り札様は人が良すぎるのか、それとも女に甘すぎるのか」
「そんなんじゃない。ただ――」
カイが反論しようとしたが、ミリアは一歩踏み出し、その言葉を切った。
「忘れたの? あいつは敵。エリアスを奪った帝国の軍人よ。……それでも、ベッドの上の女として見てるの?」
棘のある言葉に、カイは息を詰まらせた。花を抱える手がわずかに震える。
ミリアは冷たい視線を投げ、吐き捨てるように続けた。
「……あんたがどれだけ青臭い理想を抱えててもいい。でも、敵を“女”として庇うなら、私はあんたを許さない」
その背中には怒気だけでなく、深い寂しさと嫉妬の影が潜んでいた。
それでも、カイがクレアのところに行くのは変らない。
訓練前、カイが軍病院に見舞いに行ったとまた聞いた。
――あの女のところへ。
ミリアは口に出せず、ただ唇を噛みしめる。
(帝国の捕虜)だというのに、どうしてあんなに気にかける?あの女は敵なんだ。エリアスを殺した連中と同じ帝国の人間だ。それなのに、カイは優しくして、花なんて持っていって……。)
ミリアの胸の奥がずきずきと痛む。
(わたしはカイの隣に立って戦うはずだった。未来を築くのも、子を残すのも、ぜんぶ自分の役目だと思ってきた。でも、彼の視線はわたしではなく、あの女に向いている。)
ミリアの目がスッと細くなる。
(……くだらない。嫉妬なんて、子供みたいだってわかってる。けれど、どうしても抑えられない。)
見舞いの後、訓練場にやってきたカイに、ミリアはきつく当たる。
「カイ、あの女の看病に熱心で、戦う力は残してるの?」
つい皮肉を口にしてしまった。
彼が困ったように笑うのがまた腹立たしい。
わたしは拳を握りしめる。
帝国の女なんかに、カイを取らせるわけにはいかない。
ミリアの心の中に嫉妬の炎が燃える。




