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フェニックス計画――老兵たちの夢と若き継承者――   作者: 工程能力1.33


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第25話 病室にて

 軍病院の一室。簡素なベッドに横たわるクレアは、両手首を枷で拘束されていた。

 清潔な白いシーツの上であっても、彼女の鋭い眼光は衰えない。

 足音と共にドアが開き、白髪交じりの男――元大佐、いまは軍顧問のアーノルド・クラウスが入室する。


「フェニックス計画の責任者がわざわざご足労とは、随分と丁寧ね」


 クレアは薄く笑った。

 事前の情報で45年前のフェニックス計画が、アーノルド・クラウスの立案であることはわかっていた。

 そして、現在の写真も入手済みだったのである。

 いずれ、拉致か排除する予定だった人物が、目の前に来たのだ。


「尋問するの?それにしても歳を取りすぎている。……王国も人材不足かしら?」


 挑発めいた言葉に、アーノルドは動じない。椅子を引いて腰を下ろすと、静かな口調で言った。


「私が来たのは尋問のためではない。……カイが、どうしてもお前を傷つけるなと言い張ってな。もし無理やり口を割らせようとすれば、フェニックスに乗らないと駄々をこねている」

「……は?」


 クレアは目を瞬かせ、次いで鼻で笑った。


「あの、パイロットの少年が?青臭いガキね。戦争をやっているのに、敵に情けをかけるなんて」


 アーノルドは腕を組み、ゆっくりと頷く。


「確かに青臭い。だが、あの少年は戦いをスポーツの延長のように捉えている。勝敗はつけるが、恨みを積み上げはしない。戦いが終われば、そこでおしまい……そんな考え方だ」

「スポーツ、ね……」


 クレアの口元に冷笑が浮かんだ。


「甘すぎる。戦争に勝者と敗者以外は存在しない。敗者には死と屈辱しか残らないのに」


 彼女は肩を揺らして小さく笑い、目を閉じた。


「けれど……まあ、悪くないわね。そういう青臭さは。人間らしい、と言うべきかしら」


 アーノルドは何も返さず、ただその言葉を受け止めるように静かに見つめていた。


「その青臭いガキが、お前に会いたいそうだ。それを伝えに来た」

「わざわざ?」

「ああ。色々と可能性があるのでな……」


 アーノルドの指す可能性というのが、どのようなものかわからないクレアは身構えた。


「ま、そういうことだ」


 アーノルドはそう言うと病室を出た。

 直後、カイが病室のドアを開けて入ってくる。

 アーノルドと入れ替わるように姿を現したカイは、落ち着かない様子でクレアの枕元に立った。


「……酷いことはされてないか?」


 声は震えていた。少年特有の真っ直ぐな眼差しが、ベッドに横たわるクレアを映す。

 クレアは目を細めて彼を見返し、唇の端をわずかに吊り上げた。


「何もないわ」


 そう答えながらも、心の内では微かなざわめきがあった。――“酷いことをされた”と告げれば、王国軍とこの少年の間に深い亀裂を生み出すだろう。

 それが特務に属する自分の役割であるはずなのに、なぜ口にしないのか。自分でも不思議だった。

 しばしの沈黙。

 その後、沈黙を破ったのは、クレアのほうだった。


「ねえ、悪いけれど……尿瓶を取ってくれないか」


 少年の顔が一瞬固まる。


「え、あ……ああ」


 クレアはさらに追い打ちをかけるように、平然とした声で言った。


「パジャマのズボンを下ろして、尿道に当ててほしい」


 その瞬間、カイの頬が炎のように赤く染まる。


「そ、それは……! む、無理だ!」


 彼は慌てて看護婦を呼びに走り出してしまった。

 病室にひとり残されたクレアは、天井を仰ぎながら小さく鼻で笑う。


(なるほど……ただの好奇心か、それとも)


 少年が自分に性的な興味を抱いているのかを、あえて試したのだ。だが彼の反応は、欲望よりも羞恥と誠実さの色が濃かった。


「……青臭い。けれど、本当に人間らしい」


 そう心の中で呟きながら、クレアは閉じられた扉を見つめ続けていた。


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