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フェニックス計画――老兵たちの夢と若き継承者――   作者: 工程能力1.33


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第24話 地下の三人

  軍本部の司令室。

 軍工廠襲撃の報告が駆け込んだ瞬間、アーノルド・クラウスは立ち上がった。


「……なんだと。軍工廠が攻撃を受けただと!?」


 怒声に場が凍りつく。だが次の瞬間、彼はすぐに核心を突く。


「カイはどうした! 無事なのか!」


 報告官が言いよどむのを見て、ガルドが低い声で補足した。


「……崩落に巻き込まれ、消息不明とのことです」

「くっ……!」


 アーノルドは奥歯を噛みしめ、机を叩いた。


「救助隊を至急派遣しろ! あの少年は王国の切り札だ。彼を失えば、この戦は始まる前に終わる!」


 司令室の将兵たちはその一言で理解する。アーノルドが最も重視しているのは、単なる一兵士ではなく、フェニックスのパイロット――カイその人であることを。

 沈黙ののち、アーノルドは深く息を吐き、険しい眼差しを向ける。


「……同時に、防諜部門を徹底的に洗い直せ。裏切者がいるはずだ。それが居なくても問題だがな。これほどの不始末を許すわけにはいかん。軍工廠の安全を守れず、敵の侵入を許した責任は重い」


 その声音には、怒りと同時に冷徹な決意が宿っていた。

 まずは切り札の保護――その上で、軍の膿をも取り除く。

 それがアーノルド・クラウスの判断であった。


――――


 グラビオンのいた場所は、轟音と炎の余韻が消え、崩れ落ちた地下回廊には焦げた臭いが充満していた。

 カイは壁にもたれ、荒い息を吐いていた。その傍らには、骨折で動けずに横たわるクレア。


 地鳴りのような振動が近づき、次の瞬間、岩盤を突き破るようにして一機のフレームが降下してきた。

 装甲にライトが灯り、視界を切り裂く。


「――カイ!」


 スピーカーから響く声。ミリアの操るフレームだった。

 カイは顔を上げ、苦笑するように手を振る。


「……助かった」


 機体のハッチが開き、ミリアが地上に降り立つ。彼女の視線はすぐにカイの隣に釘付けになった。

 そこには、血に濡れ、必死に呼吸を繰り返すクレアがいた。


「……その女は誰?」


 ミリアの声には緊張と、どこか鋭い棘が混じっていた。

 カイは一瞬ためらい、しかし隠さず答えた。


「軍工廠を襲った連中の一人だ。……ほかに二人いたけど、多分死んでる」


 クレアの唇が震える。カイの勢いに呑まれて生存しようとしたが、捕まれば捕虜として扱われず、拷問される未来が見えていた。

 自嘲気味に笑みを浮かべると、震える手で自らの銃を掴み、こめかみに押し当てた。

 だが――カチリと乾いた音だけが響き、弾丸は出ない。


「……弾切れか。ついてないな」


 苦笑とともに銃を落とす。瞳には諦めと悔恨が浮かんでいた。

 ミリアは無言で歩み寄り、クレアの手首を掴んだ。


「捕虜として連れて行く」


 抵抗する力も残されていないクレアは、ただ力なくうなずいた。

 カイはその光景を見つめながら、胸の奥に重いものを感じていた。


 軍工廠襲撃の後、応急修復の終わった施設の片隅。

 夕陽が差し込み、火災の煤と焦げた金属の匂いがまだ残っている。カイは軍服の袖で額の汗をぬぐい、傍らでフレームのチェックをしているミリアに声をかけた。


「……なあ、ミリア。どうして帝国は、こんな無茶な攻撃を仕掛けてくるんだ?

フェニックスを狙ったのはわかるけど……俺たちが何をしたっていうんだ」


 振り返ったミリアの瞳は、長い戦いを経た兵士の色を帯びていた。


「理由? 簡単よ。帝国にとって私たちは存在してはいけないから」


 カイは言葉を失い、じっとミリアを見つめる。

 ミリアは工具を置き、声を低めて続けた。


「帝国は支配のために戦っている。だから新しい力――フェニックスやフロギストンみたいに、自分たちの秩序を揺るがすものを恐れてるの。そしてね、彼らは恐れるだけじゃない。恐れるものは、必ず潰そうとする」

「潰す……」

「ええ。人も、街も、希望も。エリアスだってそう。あの人はただ、みんなを守ろうとしただけ。でも帝国にとっては邪魔者だった」


 そこまで言うと、ミリアは一瞬だけ目を閉じた。頬に浮かぶ陰影に、彼女が抱える怒りと喪失が刻まれていた。

 カイは拳を握りしめる。


「……つまり、戦うしかないってことか」

「そう。戦わなければ、踏みにじられるだけ。あなたはまだ若いから、実感が薄いかもしれない。でも戦場に立った以上は、もう子供でいるわけにはいかないのよ」


 ミリアの言葉は冷たくも温かい。師としての厳しさと、人を突き動かす情熱が同居していた。

 カイは深く息を吐き、視線を前に向けた。


「わかった……。俺も逃げない。フェニックスで、帝国を止める」


 ミリアは小さく頷く。その横顔を見て、カイは初めて心の奥に確かな炎が宿るのを感じた。


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