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フェニックス計画――老兵たちの夢と若き継承者――   作者: 工程能力1.33


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第23話 地下の二人

 崩れ落ちた床の破片の中、かすかな唸りと熱が肌を刺す。

 クレアは自分の体が動かないことに気づいた。上半身にずしりとのしかかる重量――視線を落とすと、砂と埃にまみれた青年が彼女の上に倒れ込んでいた。黒いパイロットスーツに、胸部の機器から青白い光が微かに漏れている。


「……どけ」


 と言いたかったが、痛みがそれを止めた。

 腕と脚の骨が折れている感覚があった。


 そして、カイも意識を取り戻す。

 カイはクレアの上に乗っていることに気づくと、慌てて飛び退いた。


「……動けるか?」


 カイは恐る恐るといった感じで、クレアに訊ねた。


「……無理だな。腕と脚が……折れている」


 クレアは息を整えつつ、薄く笑った。


「私を……」


 そう言いかけた瞬間、耳を劈くような咆哮が地下に響く。

 崩落した地下に響き渡る獣じみた唸り声。瓦礫の奥から姿を現したのは、鋼鉄の装甲をまとった異形――グラビオンだった。

 グラビオンとはこの世界に生息する生物である。凶悪なトカゲであり、外皮は鉄鋼のように硬く、弾丸も跳ね返すほどである。ときおり人間を襲い、死亡例が報告されている。


「グラビオン!なんでこんなところに」

「おおかた、兵器として利用できないか研究をしていたのだろう」


 クレアの言うとおり、ここにそれがいるのは、兵器になるかと研究していたからであった。


「くそ……」


 動けないクレアを庇うように立ち上がったカイは、クレアの銃を奪うと構えた。

 クレアは呼吸を荒げながらも、青年の胸部機器に視線を奪われる。


(……この機器、このパイロットがつけているということは……フロギストン?)


 報告書でしか読んだことのない、旧世代の禁忌エネルギー。その存在を否定する者も多かったが、今まさに、自分のすぐそばでその力が脈打っている。

 見たことは無いが、これがそれである予感がしていた。

 カイは埃を払いのけ、彼女を助け起こそうとするが、クレアは足の激痛に顔を歪めた。骨折している――動けない。


「動けないのか」

「……見ての通りだ。どうせ私は捕まれば拷問が待っている。おいていけ……」


 グラビオンが足場を砕きながら迫る。鋭い鉤爪が床を削り、鉄骨が悲鳴を上げる。


「置いてなんかいけないよ」


 カイは敵であるクレアを見捨てられなかった。放置すれば死ぬのがわかっていて、そのままにできなかったのである。

 クレアは迷いを押し殺し、カイに言った。


「お前、それはフロギストンだろう?そのエネルギーを使えるんだな。私の指示に従えるか?」

「……ああ。だけど、あんたは敵だろ」

「今は関係ない。あれに喰われたら、敵も味方もない。二人が生き残るためには協力するしかないだろう」


 わずかな沈黙ののち、カイは短く息を吐いた。


「わかった。指示してくれ」

「脚は動かせんが、腕はまだ銃を撃つくらいは出来る。狙撃は任せろ。フロギストンをやつの周囲に充満させてくれ。弾丸の火花で引火させる……」


 クレアはカイから拳銃を預かり、銃口をグラビオンの体に据える。

 同時にカイは念じることにより、フロギストンを発生させた。胸部の装置の青白い光が一気に強くなり、周囲の景色がゆがむ。フロギストンが発生したせいで、光の反射が変わったからだ。


「出来た!」


 カイが叫び、クレアがグラビオンを狙って引き金を引く。弾倉の中が空になるまで、引き金を引いた結果、銃声と蒸気の噴出音が交錯し、怪物の咆哮が地下に響き渡った――。

 硬い外皮も炎の熱には耐えられなかった。フロギストンの炎が周囲を明るく照らす。

 この瞬間、カイはただ守られる側ではなく、確かに戦場を切り拓く一人の戦士となっていた。

 クレアはその横顔に思うものがあった。

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