第22話 ミリア判断を迷う
軍工廠内部――混乱のさなか
轟音とともに警報が鳴り響く。ミリアのハルバードが振り下ろされ、レオンのフレーム右腕が砕けた。油圧と金属片が飛び散り、握っていたロケット砲が暴発。爆風に揺さぶられたコックピットの中で、レオンは瞬時に判断を下す。
「……撤退だ」
彼は左手で緊急操作パネルを叩き、煙幕散布装置を起動。圧縮ガスが噴き出し、軍工廠の通路が白い煙で満たされる。
『逃がすか!』
ミリアが叫び、スラスターを吹かして追おうとする。
しかし、濃密な煙が視界を完全に奪い、センサーも乱反射で役に立たない。
「……ちっ」
歯噛みしたミリアが減速する。無理に突っ込めば、逆に迎撃を受ける危険が高い。
軍工廠の内部に響き渡る警報音は、赤い閃光とともに壁面を染め上げていた。鉄骨が軋むような音、煙と火薬の臭い。倒壊した壁や崩れ落ちた梁の下で、多くの兵士たちが混乱に声を上げる。
その混乱の中で、ミリアは必死に煙幕を抜けようとしていた。フレームのコックピット越しに見える視界は灰色に染まり、何もはっきりしない。だが、敵影だけは確かにそこにあった。レオンの機影――。
「……逃がさない!」
エリアスの最期が、鮮烈に脳裏を過ぎる。血に濡れた仲間の顔。あのとき誓ったはずだ。帝国軍を、必ず自らの手で討つと。
だが次の瞬間、無線から鋭い声が飛び込んでくる。アンチマナダイト粒子が飛散し、通信が回復したのだ。
> 「少尉! カイが……崩落に巻き込まれた!」
息が止まった。心臓が喉を突き破るほどに脈打つ。
視界の先には、なおも煙幕を突き破って逃げようとするレオンの影。追えば、いまなら仕留められるかもしれない。エリアスの仇を討てるかもしれない。
――だが。
脳裏に浮かぶ、必死に操縦桿を握りしめていたカイの顔。未熟で、足りないところばかりの青年だ。それでも、自分に食らいつこうとし、必死に前を向いていた。彼は戦場で死ぬべき存在ではない。
「どうすれば……」
喉の奥で声にならない呻きが漏れる。
正義か、仲間か。復讐か、責務か。
わずか数秒の葛藤が、永遠のように長く感じられた。
「……エリアス。ごめん」
目尻に熱が滲む。操縦桿を強く引く。
フレームが砂塵を巻き上げ、レオンの影から反転する。
逃げ去る敵影を背にしながら、ミリアは自らの選択に奥歯を噛み締めた。
「私は……仲間を見捨てない!」
機体は崩落地点へと向かっていく。
赤い警報灯に照らされたコックピットの中で、ミリアの瞳は涙を含んで揺れていた。復讐心を抑え込んだ痛みと、カイを助けねばという焦燥が、胸を焼くようにせめぎ合う。
――この選択が正しかったと証明するためにも。
――必ず、彼を生きて連れ戻す。
そう誓いながら、ミリアは崩落の地へ突き進んだ。
一方、レオンは計器を頼りに軍工廠の外壁近くまで移動すると、右腕を失ったフレームをその場に放棄。ハッチを開け、素早く飛び降りる。
装甲板の陰を走り抜け、非常口から外へ。そこから物資搬入口の影を使い、基地外周に向かって身を低くして移動していく。




