第21話 ミリア出撃
耳を劈くサイレンが王都の空気を震わせた。赤い警告灯が回転し、整備区画の人員が一斉に持ち場から駆け出していく。
クレアは格納庫に走ってきた。
「私のフレームは行けるか?」
ミリアが駆け込むや否や、メカニックに短く問いかける。
「少尉の機体だけは、対アンチマナダイト粒子コーティングが終わってます!」
その言葉を聞くと、ミリアはためらいなく昇降リフトに飛び乗り、コクピットへ身を滑り込ませた。
一方、クレアたち。
軍工廠攻撃の混乱は、クレアたちの行動を怪しむ者を生まなかった。
鳴り響く警報、命令に従いレオンのフレームに向かう者、恐怖から部屋に引きこもる者などは、クレアたちの様子など気にもとめていない。
クレアがなんの障害もなく軍工廠の奥の試験棟まで来た時、カイは警報が鳴ったことで、会議室でフェニクスの新仕様について議論していたが、隣にいたハンスとオットーと顔を見合わせ、慌てて廊下へと飛び出した。
耳に届くのは銃声と爆発音。緊張感が肌を刺す。
角を曲がった瞬間、そこにいたのは銃を構えた女――クレアだった。
彼女の瞳は冷ややかで、迷いがなかった。
「動かないで」
鋭い声とともに銃口がカイの胸を狙う。カイは咄嗟に立ち止まり、拳を握ったが、丸腰のままでは抗う術がなかった。
クレアはカイを見据え、目を細める。
「……あなた、ただの軍人じゃないわね。そのパイロットスーツと、この場所にいるっていうことは、あの新型のパイロットよね」
カイは唇を噛んだ。その言葉で彼がフェニックスパイロットであることを見抜かれたのを理解した。
さらにクレアは会議室の扉を押し開け、中を覗き込む。床には工具や図面が散らばり、そして狼狽するハンスとオットーの姿があった。
「なるほど……老兵たち、ね。資料はフロギストンについて。なるほど、フェニクス計画の人材が揃っているなんて、想像以上だわ」
彼女は口元に笑みを浮かべると、部下に命じた。
「殺さなくていい。縛っておきなさい。情報源としては生きていたほうが役に立つ」
銃を突きつけられたハンスとオットーは抵抗する間もなく捕らえられ、荒々しくロープで縛られ会議室に転がされた。
残されたカイの額に、冷たい銃口が押し当てられる。
クレアは一歩踏み込み、囁くように言った。
「案内してもらうわ。――フェニクスのところへ」
その言葉にカイの心臓が跳ね上がる。
背筋に冷たい汗が伝うのを感じながら、彼は静かにうなずくしかなかった。
クレアは銃口を離さず背後へ短く指示を飛ばす。
「行け」
後ろにはプロメテウス機関の精鋭二人がぴたりと控え、無言で周囲を警戒している。カイはその鋭い視線を背中に感じながら、軍工廠奥のフェニックスへと歩を進めた。
その瞬間――。
轟音とともに天井が震え、鋭い衝撃波が走る。レオンの機体から暴発したロケット砲弾が、真横の壁を粉砕して突き抜け、床面で炸裂したのだ。
「――ッ!」
目を見開く暇もなく、爆炎と破片が襲いかかる。後方の二人の部下は避ける間もなく爆心に巻き込まれ、炎に包まれて消えた。
何が起こったのかというと、ほんの少し前のこと。
別の区画では、ミリアの機体が砂塵を蹴立て、遮蔽物から飛び出してレオンの操るフレームに攻撃をした。
「――エリアスの仇!」
胸の奥で燃える憎悪とともに、接近戦用ハルバードを振りかざす。刃が空を切り裂き、反応の遅れたレオン機の右腕装甲に直撃した。
金属が悲鳴を上げ、フレームの右腕が破損。握っていたロケット砲が暴発し、炎と破片が迸る。
クレアは咄嗟にカイの肩を掴み、爆風から身をかばう。しかし、次の瞬間には床の鉄骨が悲鳴を上げ、足元が大きく沈む。
「くそっ……!」
崩落は止まらず、鉄板と瓦礫が雪崩のように崩れ落ちる。
カイとクレアの身体は重力に引かれ、暗く口を開けた地下区画へと吸い込まれていった。
最後に見えたのは、フェニックスの影が揺らぎながら遠ざかっていく光景だった。




