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フェニックス計画――老兵たちの夢と若き継承者――   作者: 工程能力1.33


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第2話 国境侵犯

 陽はまだ高く、国境地帯は冬の陽光に照らされていた。

 灰色の鋼鉄の巨体が、丘陵地帯をゆっくりと進む。

 王国軍の最新式マナダイト駆動フレーム――そのコクピットに、ミリア・クラウスは身を預けていた。

 通信機からは、軽やかな声が届く。


『おい、ミリア。そっちは異常なしだな?』


「ええ、エリアス。こっちも鳥の群れくらいしか動きはないわ」


 モニターに映るのは、哨戒に出ているもう一機のフレーム。別の哨戒部隊所属、その操縦桿を握る青年――エリアス・ヴォルクナーは、白い息を吐きながら笑った。

 個別通信でのやり取り。違反ではあるが婚約者であるミリアとエリアスについては、これが黙認されていた。


『やれやれ、こんなに静かだと居眠りしちまいそうだ』

「国境警備は退屈なぐらいがいいのよ」

『そう言うなよ。退屈な任務が続いたら、結婚式の日取りだって早められるかもしれないだろ?』

「……ふふ、それは悪くないわね」


 つかの間の静けさ。

 だが、その瞬間――モニターの端が真紅に染まり、警告音が鳴り響く。


『ミリア、反応がある! 北東、三キロ先――帝国軍だ!』


 視界の端に、複数のフレームと装甲車両が現れる。

 その先頭に立つ漆黒の機体。その肩部ランチャーに装填された弾頭を見た瞬間、エリアスの声色が変わった。


『弾頭……見たことがない型だ。装甲貫通弾じゃない、これは……』


 砲口が閃光を吐いた。

 次の瞬間、白く濁った霧のような粒子が一帯に拡散し――フレームの駆動系が一斉に沈黙する。


『……!? な、なんだ……動力が落ちた……! マナダイト反応ゼロだ!』


 焦った声。警告灯が赤く点滅し続け、エリアスの呼吸が荒くなる。


『くそっ……起動しろ! 動けよ……! なぜだ、エネルギーが吸われて……!?』


「エリアス、落ち着いて!」

『ダメだ……操縦桿が……応答しない! ミリア、全機に――』


 その言葉の途中で、通信が激しいノイズに呑まれる。

 耳に残るのは、途切れ途切れの呼吸音と、最後の叫び。


『ミリア――ッ!』


 霧が視界を覆い、モニターは暗転。

 残されたのは、鼓動の音と、冷たい沈黙だけだった。


 ミリアは震える指で通信機の周波数を切り替え、何度も送信スイッチを叩いた。


「エリアス! 応答して! ……エリアス!」


 返ってくるのは、耳を刺すノイズだけ。

 アンチマナダイト粒子が霧のように漂い、機体の計器は無反応のままだ。

 心臓の鼓動が早まり、胸の奥に冷たいものが広がっていく。


「……嘘よ。こんな……」


 拳で通信機を叩く。

 しかし、その虚しい衝撃音だけがコクピットに響いた。

 外の景色は白い霧に覆われ、味方機の影すら見えない。

 不安と焦燥が、喉を締めつける。


「誰か……応答して……!」


 その祈りのような声も、冷たい機械の沈黙に吸い込まれていった。


――――


 ――同じ頃。


 国境から南へ十キロの小さな村。

 カイは、同年代の仲間たちと山道を登っていた。

 澄んだ空気と、遠くまで見渡せる青空。

 彼らの話題は、数か月後に迫った成人式のことだった。


「成人したら、この村を出て軍に入るんだ」

「そうだな。国境は危ないけど、やっぱ男なら軍人だろ」

「カイ、お前も行くだろ?」


 問いに、カイは少し俯き、ゆっくりと首を振った。


「……俺は行かない。両親が眠ってるこの村に残る。それに……戦争なんて怖いし」


 一瞬の沈黙のあと、笑いが起きる。


「ははっ、何だよそれ! 腰抜けか?」

「それでも男かよ!」


 からかいが続く中――。

 遠くから鈍い爆音が響き、全員の笑いが止まった。


 振り向けば、北の空に黒煙が上がっている。

 稜線越しに、帝国軍の鋼鉄の巨影と、村へ向けられた砲火が見えた。


「……っ!」


 カイを嘲っていた少年たちは、その場に釘付けになり、足がすくむ。

 だがカイは迷わなかった。

 胸に浮かんだのは――村に残してきた、祖父ガルドの姿。


「じいちゃん……!」


 熱くなる胸を押さえ、カイは山道を駆け下りた。

 戦火へ向かって――。


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