第19話 決行前夜
作戦前夜 ― 軍工廠外周・北側補給倉庫
鉄の匂いが充満する倉庫の奥、薄暗い空間に並ぶコンテナの影の中で、一機のフレームがひっそりと膝を折っていた。
王国軍の第5世代フレームと見分けがつかないシルエット――だが、これは帝国内で密造され、ヴァルディア王国の王都で組み立てられた偽物だ。動力炉も制御系も、実機と寸分違わぬ仕様に仕立てられている。
コックピット内で、レオンは暗視ゴーグル越しに計器盤を確認し、無線のスイッチを指先で軽く叩いた。
外は湿った夜気、倉庫の壁を伝って水滴が滴る音がやけに響く。
「……こちらレオン。いつでも動ける」
短く通信を飛ばすと、あとはひたすら沈黙が支配する。
一方その頃――
軍工廠の南東2キロ地点、街道脇に停められた古びたトラック。
荷台には帆布を被せた木箱が山積みされている。その中身は、淡く鈍い光を放つ特殊弾頭――アンチマナダイト粒子を充填した迫撃砲弾だ。
木箱の隙間からは冷却剤の白い蒸気がゆらりと立ち昇り、夜の闇に溶けていく。
運転席では、クレアが静かに地図を見つめていた。
その横で、特務の副官が発射装置のセーフティを確認し、指をすり合わせる。
「弾頭、異常なし。発射座標も入力済みです」
「よし……」
クレアは短く答え、無線の受信機を見やる。時刻は深夜二時。
暗号通信で送られた命令――
フレーム奪取、不可なら破壊。
それを遂行するための一撃が、この荷台に眠っている。
夜風が帆布をはためかせ、わずかな金属の匂いを運んできた。
全員が息を殺し、ただ時を待つ。
遠くで、軍工廠の監視灯が一瞬、雲間に反射して鋭く光った。
「さて、寝よう。起きたら長い一日のはじまりだ」




