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フェニックス計画――老兵たちの夢と若き継承者――   作者: 工程能力1.33


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第14話 ヴァルディア王国への潜入

 クレアとレオン、それにプロメテウス機関のメンバーは、商人のキャラバンに偽装して王国領へと潜入していた。

 国境を越えると、すぐにナンバープレートを王国の物に変更し、免許証を燃やして、帝国から来たという痕跡を消す。

 昼下がりの街道を進むトラックの揺れに身を任せながら、二人はシートに腰を下ろしていた。

 荷台には積まれた木箱や麻袋があり、香辛料や干し肉の匂いが運転席まで漂い、鼻をくすぐる。


 今回の目的は、カイが暮らしていた国境近くの村に接近し、そこから得られる情報をもとに謎のフレームを目指すことだ。


 「例のフレームが王都に運ばれたらしい」という噂を、二人はすでに耳にしていた。

 だが、それは兵士や村人の間で囁かれる断片的な話にすぎず、軍は厳しい箝口令を敷いて情報を統制している。


「情報は薄いが、確かめるしかない」


 クレアは淡々と言い切る。

 彼女は王都に張り巡らせた間諜網を動かすつもりでいた。王都に行けば、必ず真実に辿り着けるはずだ。


 休憩時、ふと、レオンは水筒の水を飲むクレアの横顔に目をやった。

 軍服姿とは違い、商人風の質素な上衣の下に隠しきれない女性らしい曲線がある。

 視線を逸らそうとしたが、どうしても意識してしまう。


「やめとけよ、レオン」


 別のトラックを運転している特務の同僚が、ニヤリと笑って言った。


「大佐を女として見ると痛い目に遭う。あの人は任務と感情を切り分ける。そういう人だ」

「……わかってる」


 レオンは短く答えたが、内心ではその言葉を振り払うように拳を握りしめた。


 キャラバンは王都へ向けて、緩やかに進んでいく。

 その車輪の音に混じって、二人の新たな任務の始まりを告げるかのように、遠くで雷鳴が響いた。


 夕暮れ時、商人キャラバンは王都へ向かう街道を進んでいた。

 街道の終わりに、粗末だが鋭い視線を持つ王国兵が立ちはだかる。

 木製の柵と鉄槍が並び、検問所の前には車を止めた商人たちが順番を待っていた。


 運転席に腰かけたレオンは、片手でハンドルを握り、もう片方で商人用の通行証を懐から出す。

 前方の兵が低く問いかけた。


「荷の中身は?」

「乾燥肉と織物、それと薬草だ」


 淡々と答えるレオンの声に、兵士の視線が荷台の覆いをかすめる。


 一瞬、視線が鋭くなった。


「薬草はどこで仕入れた?」

「シャンベル村だ。あそこのものは少し高いが品質は折り紙付きだ」


 即座に返すレオンの口調は、まるで何十回も商談をこなしてきた商人そのものだった。

 兵は一拍置き、鼻で笑う。


「通れ」


 ゲートのバーが開いて、トラックのタイヤが一歩踏み出す。

 柵を抜けると、助手席で地図を広げていたクレアがゆっくり顔を上げた。


「……見事だったな、今の切り返し」

「まあ、訓練でやりましたから」


 レオンは肩をすくめて答えるが、内心は不覚にも胸が熱くなる。

 クレアは笑みを見せたわけではない。ただ、その言葉には本物の評価がこもっていた。


「舌先三寸で人の疑いを逸らすのは難しい。特に、あの兵士のような勘の鋭い相手にはな」

「褒め言葉として受け取っておきます」


 わずかに笑みを返すレオン。

 彼の視線は一瞬だけ、地図越しに見えるクレアの横顔に向かう。

 夕暮れの橙色が、黒髪の艶を柔らかく照らしていた。


 トラックは再び街道を走り出す。

 互いに言葉を交わさずとも、先ほどよりわずかに距離が縮まった空気が、車輪の軋む音に混じっていた。


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