第14話 ヴァルディア王国への潜入
クレアとレオン、それにプロメテウス機関のメンバーは、商人のキャラバンに偽装して王国領へと潜入していた。
国境を越えると、すぐにナンバープレートを王国の物に変更し、免許証を燃やして、帝国から来たという痕跡を消す。
昼下がりの街道を進むトラックの揺れに身を任せながら、二人はシートに腰を下ろしていた。
荷台には積まれた木箱や麻袋があり、香辛料や干し肉の匂いが運転席まで漂い、鼻をくすぐる。
今回の目的は、カイが暮らしていた国境近くの村に接近し、そこから得られる情報をもとに謎のフレームを目指すことだ。
「例のフレームが王都に運ばれたらしい」という噂を、二人はすでに耳にしていた。
だが、それは兵士や村人の間で囁かれる断片的な話にすぎず、軍は厳しい箝口令を敷いて情報を統制している。
「情報は薄いが、確かめるしかない」
クレアは淡々と言い切る。
彼女は王都に張り巡らせた間諜網を動かすつもりでいた。王都に行けば、必ず真実に辿り着けるはずだ。
休憩時、ふと、レオンは水筒の水を飲むクレアの横顔に目をやった。
軍服姿とは違い、商人風の質素な上衣の下に隠しきれない女性らしい曲線がある。
視線を逸らそうとしたが、どうしても意識してしまう。
「やめとけよ、レオン」
別のトラックを運転している特務の同僚が、ニヤリと笑って言った。
「大佐を女として見ると痛い目に遭う。あの人は任務と感情を切り分ける。そういう人だ」
「……わかってる」
レオンは短く答えたが、内心ではその言葉を振り払うように拳を握りしめた。
キャラバンは王都へ向けて、緩やかに進んでいく。
その車輪の音に混じって、二人の新たな任務の始まりを告げるかのように、遠くで雷鳴が響いた。
夕暮れ時、商人キャラバンは王都へ向かう街道を進んでいた。
街道の終わりに、粗末だが鋭い視線を持つ王国兵が立ちはだかる。
木製の柵と鉄槍が並び、検問所の前には車を止めた商人たちが順番を待っていた。
運転席に腰かけたレオンは、片手でハンドルを握り、もう片方で商人用の通行証を懐から出す。
前方の兵が低く問いかけた。
「荷の中身は?」
「乾燥肉と織物、それと薬草だ」
淡々と答えるレオンの声に、兵士の視線が荷台の覆いをかすめる。
一瞬、視線が鋭くなった。
「薬草はどこで仕入れた?」
「シャンベル村だ。あそこのものは少し高いが品質は折り紙付きだ」
即座に返すレオンの口調は、まるで何十回も商談をこなしてきた商人そのものだった。
兵は一拍置き、鼻で笑う。
「通れ」
ゲートのバーが開いて、トラックのタイヤが一歩踏み出す。
柵を抜けると、助手席で地図を広げていたクレアがゆっくり顔を上げた。
「……見事だったな、今の切り返し」
「まあ、訓練でやりましたから」
レオンは肩をすくめて答えるが、内心は不覚にも胸が熱くなる。
クレアは笑みを見せたわけではない。ただ、その言葉には本物の評価がこもっていた。
「舌先三寸で人の疑いを逸らすのは難しい。特に、あの兵士のような勘の鋭い相手にはな」
「褒め言葉として受け取っておきます」
わずかに笑みを返すレオン。
彼の視線は一瞬だけ、地図越しに見えるクレアの横顔に向かう。
夕暮れの橙色が、黒髪の艶を柔らかく照らしていた。
トラックは再び街道を走り出す。
互いに言葉を交わさずとも、先ほどよりわずかに距離が縮まった空気が、車輪の軋む音に混じっていた。




