第13話 近代化改修を知る
また別の日、格納庫の片隅で、フェニックスの外装板が外され、骨組みがむき出しになっていた。
カイは工具を持つでもなく、その光景を見上げていたが、やがて近くにいたオットー、エレナ、ハンスに向き直った。
「えっと……“近代化改修”って、結局何をするんですか?」
問いに答えたのは、腰に手を当てたエレナだった。
彼女は少し笑みを浮かべ、フェニックスのフレームを軽く叩きながら言う。
「分かりやすく言うとね、今までは“子供の体”だったのを“大人の体”にするってことよ」
「……え?」カイは首をかしげる。
エレナは工具を持ち替えながら、噛んで含めるように続けた。
「フェニックスの心臓――フロギストンエンジンは、本来もっとパワーを出せるの。でも、昔は機体のほうがその力に耐えられなかったのよ」
「つまり……?」
「たとえば、子供の体に大人の筋肉を無理やり付けたらどうなると思う?」
「骨が……折れますね」
「そういうこと。だから昔はわざとデチューンして、出力を押さえてた。けど今は材料工学も機械工学も昔とは比べ物にならない。骨格にあたるフレームも、関節や装甲も、エンジンの本来の力に耐えられるようになった」
オットーが補足するように、図面を指差す。
「この“近代化改修”で、あの頃は夢物語だった出力を現実にできるんだ。君の腕次第で、フェニックスは今の第五世代フレームに匹敵する性能になる」
ハンスが鼻を鳴らす。
「まあ、その腕があるかどうかは、これからの訓練次第だがな」
カイは一瞬だけ言葉を失い、再びむき出しのフレームを見上げた。
カイはエレナの説明を聞きながら、自分の胸の奥で何かがくすぶるのを感じていた。
「……つまり、本気を出せるようになるってことか」
自分でも驚くほど低く、しかしはっきりとした声が口をついた。
ハンスがにやりと笑い、油で汚れた手袋を外して肩をすくめる。
「そういうこった。お前がちゃんと踏ん張れるようになればな」
「お前次次第で、フェニックスは化けるぞ」
オットーも静かに言葉を添える。その目は、年齢を感じさせない鋭さを帯びていた。
カイは視線を落とし、拳を握りしめた。指の骨がきしむ。
──今まで、自分は戦う理由なんてないと思っていた。
けれど、あの日、村が焼かれ、祖父が血を流しながら自分に託したものがある。
それをただ守られるだけの立場で終わらせたくはない。
「……やります」
顔を上げたカイの瞳は、先ほどまでとは違っていた。弱さや迷いの影に、静かな炎が宿っている。
エレナは満足そうに腕を組む。
「いい顔になったじゃない。だったら、私たちも本気で仕上げるわよ」
作業場の奥で、誰かが溶接の火花を散らす。
その青白い光が、カイの決意をさらに強く照らし出していた。
──その光景を、作業場の隅からミリアが黙って見ていた。
腕を組み、壁にもたれながら、視線だけはカイから外さない。
(……少しは骨があるじゃない)
心の中でそう呟くと、わずかに口元が緩んだ。
だが同時に、自分の胸の奥に芽生えかけた何かを振り払うように、視線をそらし、工具箱を手に取った。
心が近づきすぎるのは──まだ、許さない。




