アルカディア・オンライン
昼休みの教室は、発売初日の熱気に包まれていた。
「なあ、天城。今日だよな? 《アルカディア・オンライン》のサービス開始って!」
隣の席から身を乗り出してきたのは、クラスのムードメーカー、坂井だった。
「そうそう。午後三時から正式オープンだ」
蓮は笑みを浮かべつつも、胸の奥で高鳴る鼓動を抑えきれなかった。
――ついに始まる。待ちに待った、フルダイブ型VRMMORPG。
「お前、もう予約してあるんだろ? さすがだよなぁ。俺なんて抽選外れたから、実況配信で我慢だぜ」
「いや、運が良かっただけだよ。……まあ、運が良すぎるくらいに」
そう答えながら、蓮は鞄の中に入った小さなパッケージを意識する。
黒いケースに刻まれた金色の文字――《アルカディア・オンライン》。
それは現実よりも鮮やかな世界への扉だった。
「どうせなら同じパーティで冒険したかったんだけどな」
坂井は残念そうに息を吐く。
蓮は肩をすくめつつも、心の中でひとりごちた。
――誰と組むかは分からない。でも、この世界でなら、きっと俺も“本当の冒険者”になれる。
チャイムが鳴り、昼休みのざわめきが収束していく。
授業なんてもう耳に入らなかった。
頭の中は、ログインの瞬間のことでいっぱいだった。