第12.1話:地獄の円安(9) 荒れ果てた大地 ― 迫る飢餓
霞が関、農林水産省の大会議室。
テルが呼び集めたのは、農水省の幹部官僚と、現場の農政局長たちだ。議題は一つ、「食料の緊急国内増産」だ。
農水大臣が声を張り上げた。
「輸入食料の確保が困難になっている。国内農業に全力を注ぐ。耕作放棄地の解消を急げ! 緊急増産プログラムを今すぐ——」
現場を知る農政局長の一人が、苦しそうに手を上げた。
「……申し上げにくいのですが。机上の試算と現実では、大きな差があります」
「どういうことだ」
「耕作放棄地は、背丈ほどの雑草と木に覆われており、トラクターも入れません。重機で整備しようにも、燃料が優先課題で調達が難しい。さらに、円安で化学肥料も種子も以前の三倍以上。燃料もない。そして最も深刻なのは……」
局長は、ためらってから続けた。
「農村に、人がいません。腰の曲がった老人しかおらず、荒れ地を開墾する担い手が存在しません。政府が号令をかけても、動かす人間がいないんです」
会議室が、静まった。
別の局長が、静かに続けた。
「仮に今から全力で取り組んでも、収穫まで最短で半年。その間の食料を、我々は確保できる見通しが……ありません」
「餓死者が出る」という言葉を、誰も口にしなかった。しかし、会議室の全員の脳裏に、その二文字が浮かんでいた。
テルは、その絶望の空気を、しばらく正面から受け止めた。
そして、言った。
「……分かった。一晩、考える。明日の朝、また集まってくれ」




