第12.1話:地獄の円安(6) 禁じ手 ― 原発全基再稼働
十一月。LNG不足が臨界点を超えた。
関東電力の需給見通しによれば、翌週には東日本全域で「計画停電」では追いつかない「大規模ブラックアウト」が現実のものとなる。病院のICU、透析施設、信号機、通信基地局——全てが止まる。
テルは夜中の二時に、原子力規制委員会の委員長を官邸に呼び出した。
会議室に入ってきた委員長は、官邸からの呼び出しの意味を察知してか、顔が蒼白だった。
「大臣、この時間に呼ばれた理由は……」
「停止中の全原発の、即時再稼働を要請します」
委員長は絶句した。
「安全審査は! 地元同意は! 手順というものが——」
「手順を踏む時間はありません。来週、東日本がブラックアウトします。ICUが止まります。透析患者が死にます。その命と、政治的リスクを秤にかけた時、どちらが重いかを判断しているのです」
テルは、既に準備していた一枚の文書を、委員長の前に置いた。「超法規的措置に基づく緊急稼働命令書」。その最後の欄には、署名のための空白がある。
「責任が取れますか! もし事故が——」
「責任は全て私が取ります。この命令書に私のサインを入れます。何かあれば、私を全力で叩いてください。それで構いません。ただ今夜、あなたのサインが必要です」
委員長は長い間、その文書を見ていた。
やがて、震える手でペンを取った。
翌日から、全国の停止中原発が順次起動し始めた。
翌朝のSNSと夕刊は、「独裁者ヤマト」の文字で埋め尽くされた。反原発団体が官邸前に集結し、野党は「原子力行政の壊滅」と緊急声明を出した。テルの支持率は、単月で十二ポイント崩れた。
それでも、電力は守られた。ICUは動き続けた。




