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第12.1話:地獄の円安(5) ハゲタカの宴

 「日本はバーゲンセールだ」という言葉は、世界の投資家にとって本当のことになっていた。

 ラル換算で土地も建物も労働力も、全てが三分の一以下。万里やアトランティスの資本が、競うように日本に押し寄せた。

 京都、祇園の路地裏。

 かつて石畳の静寂が自慢だった小道は、今やゴミの海に沈んでいた。プラスチック容器、串の残骸、外国語で書かれたスナック菓子の袋。異臭が漂い、老舗の料亭の前には記念撮影の行列が途切れない。京都の住民は、自分たちが観光地の小道具にされているような感覚を持ち始めていた。

 ニセコでは、水源地の傍の広大な土地が、正体不明の海外法人に二束三文で売られた。明治時代から続く老舗の旅館が、三代目当主の借金返済のために外資ファンドに渡った。翌月には、その旅館の看板は外国語だけになっていた。


 テルは、議員会館の執務室で窓ガラスに額をつけた。その先に広がる東京の街並みを見ながら、奥歯を噛みしめた。

 かつてテルは、与党議員として「外国人土地取引規制法案」を提出していた。国防上重要な地域周辺の土地を、外国資本が取得する際に事前審査を義務付ける法案だ。理念は正しかった。だが、与党内の城山派と財界が「経済の自由を阻害する」と猛反発し、同じ党の議員たちに潰された。仲間に刺された格好だ。廃案になった。

 今になって思う。あの法案が通っていれば——。

 テルは拳を上げ、ガラスに叩きつけた。

 バン、という鈍い音が響いた。窓に亀裂は入らなかったが、テルの手の甲が赤くなった。彼はその手を見つめ、ゆっくりと息を吐いた。


「……法整備なき戦場に、飛び込んでしまった。それは、俺の失策だ」


 自らの不作為を、彼は真正面から認めた。後悔を力に変えるために。


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