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第11話:静かなる介入(3) 機能停止ドミノv2

 万里人民共和国、海軍揚陸艦『ダガー1』。艦橋は、上陸作戦開始直前の、独特の熱気に包まれていた。


「機関室、最大戦速! 目標、台湾・高雄港!」


 艦長の、興奮を帯びた声が、艦内に響き渡る。


「了解! 最大戦速!」


 その直後だった。

 艦全体が、ガクン、と、何かに乗り上げたかのような、鈍い衝撃と共に、大きく揺れた。


「な、何事だ!?」


 艦長が叫ぶ。

 機関室から、悲鳴のような報告が入った。


「ダメです! スクリュープロペラが、停止! 何かに、絡まっています! 推進力、ゼロ!」

「馬鹿な! この海域に、巨大な漁網など、あるはずが…!」


 その時、彼らの足元、水深三百メートルの暗黒の海で、何が起きていたのかを知る者は、誰もいなかった。

 先陣を命じられた睦月隊むつきたいに属する一機の『零潜』が、『ダガー1』の真下に、音もなく忍び寄っていた。その機体下部から、特殊工作ポッドのアームが伸び、先端から、極細のワイヤーが射出される。

 カーボンナノチューブを編み込んで作られた、ダイヤモンドより硬く、ピアノ線よりしなやかな、見えざる悪魔の糸。

 ワイヤーは、高速で回転するスクリュープロペラに、一瞬で絡みつき、その運動エネルギーを利用して、自らプロペラシャフトを締め上げ、へし折ったのだ。

 同じ頃、旗艦『鄭和』のCICでは、別の異常事態が発生していた。


「ダメです! 早期警戒艦『ウォッチャー』とのデータリンクが、完全に途絶!」

「通信中継艦『リンカー』からも、応答がありません!」


 メインスクリーンの戦術マップから、友軍を示す光点が次々と消失し、漆黒のノイズに塗りつぶされていく。


「何も見えん……! まるで、世界中の光が消えたようだ!」


 艦隊は、一瞬にして、目と耳を、そして太陽(情報)を奪われ、電子的な『常闇』の底へと叩き落とされた。

 深海では、敵の感覚器官を奪う任を帯びた如月隊きさらぎたいの『零潜』たちが、暗躍していた。

 海水中では、電磁波は数センチで減衰し、無力化する。さらに敵艦は鋼鉄のファラデーケージで守られている。遠距離からのジャミングなど、深海では不可能だ。

 だからこそ、彼らは「触れた」のだ。

 一機の『零潜』が、まるでコバンザメのように『ウォッチャー』の船底、その巨大なソナードームの表面に、音もなく吸着する。

 機体から伸びた鋭利な接触端子プローブが、センサーの隙間をこじ開け、外部接続端子へと「毒針」のように突き刺さる。

 次の瞬間、内蔵コンデンサに蓄えられた膨大な電力が、一気に解放された。

 強力な電気パルスが、神経系である信号ケーブルを逆流し、中枢の制御回路へと雪崩れ込む。物理的な外傷を与えることなく、電子的な脳だけを、内側から焼き切ったのだ。

 そして、ドミノの最後の一枚が、倒される。

 ミサイル駆逐艦『シールド1』の戦闘指揮所。


「対空ミサイル、発射準備、完了!」


 オペレーターが報告した、その直後。

 彼の目の前のコンソールに、赤い警告表示が灯った。


ERROR: FCS OFFLINE - WEAPON SYSTEM UNRESPONSIVE

(エラー:火器管制システムがオフラインです - 兵装システムは応答しません)


「な、なんだと!? システムが応答しないだと!?」


 艦長が、信じられないというように叫ぶ。

 艦の外、水面下では、弥生隊やよいたいの一機が、VLS(垂直発射システム)の区画直下に、ピタリと張り付いていた。

 鋼鉄の装甲が途切れる、わずかな冷却水排出バルブ。そこへねじ込まれたプローブから、致死的な電圧サージが注入される。

 火器管制システムは、自身の神経網を駆け巡った過電流によって、悲鳴を上げる間もなくショック死していた。

 一発の爆発も、ない。

 一人の死傷者も、いない。

 ただ、静かに、確実に、万里の誇る大艦隊は、その神経を、感覚を、そして牙を、次々と抜かれていく。

 侵攻開始から、わずか数十分。

 数百隻からなる鋼鉄の巨象の群れは、その戦闘能力のほとんどを奪われ、台湾海峡の洋上で、ただ立ち往生するだけの、無力な鉄の棺桶へと、成り果てていた。

皆様の声援が、三兄弟の戦いを未来へと繋げます。この物語を多くの人に届けるために、皆様の力をお貸しください!(↓の★で評価できます)


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