表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/69

第10話:八百万の神々の胎動(3) 魂のインストールと覚醒

 令化二十九年、秋。

 横須賀の秘密ドックは、あの日の失敗の記憶が生々しく残る、重い緊張感に包まれていた。

 だが、その空気の中には、以前とは違う種類の熱気が混じっていた。

 山田社長率いる職人たちが、サクの要求に応え、X-0の全身に何百万個ものニューロモーフィック・チップを埋め込むという、気の遠くなるような「移植手術」を完遂させたのだ。今のX-0は、物理的にも「神経」を持つ獣へと進化していた。

 再び、テスト水槽の前に、カイを始めとする開発チームが集結している。

 その中心で、森田悟が、最後の作業を行っていた。彼の手の中にあるのは、サクが創り出したAI『アマテラス』のコアモジュール――すなわち「指揮者」が収められた、掌サイズの黒い箱。

 彼は、それを、全身に張り巡らせられた神経網の中枢ポートに、慎重に、まるで神体を祀る神官のように、接続した。


「……インストール、完了しました。全身のチップとの同期、確認。全神経、正常に発火しています」


 森田の声が、静かなドックに響いた。

 カイは、司令卓のマイクを握り、短く、しかし、この国の運命を左右する言葉を、告げた。


「起動」


 X-0の、漆黒の船体が、微かに振動を始めた。

 前回のテストで悪夢のように鳴り響いた、モーターの非効率な駆動音は、全く聞こえない。

 やがて、X-0は、ゆっくりと、水槽の中へと泳ぎだした。

 その動きは、機械のそれではなかった。

 まるで、眠りから覚めた、本物のイルカのように。

 AI『アマテラス』が、その指揮下にあるモーター制御AI『タヂカラオ』に命じ、生み出される、力強く、そして、滑らかな「うねり」。それは、水という媒体を、完全に支配下に置いた、王者の泳ぎだった。

 水槽の壁に近づくと、ぶつかることなく、生物のように、しなやかに身を翻して回避行動をとる。

 その、生命感溢れる動きに、開発チームの誰もが、言葉を失っていた。

 天野ミキは、自らが設計したハードウェアが、本当の命を宿した瞬間を目の当たりにし、その目に涙を浮かべていた。

 その時だった。

 ソナーマンの古賀が、ヘッドセットを外し、信じられない、という表情で、カイの方を振り返った。


「……おかしい」


 その声は、驚愕に震えていた。


「モニターの映像では、尾びれが信じられないほどのパワーで水を打っています。水の塊が、後方へ力強く押し出されているのが、視えるようだ…。ですが、耳には、何も聞こえない。推進音どころか、船体が水を掻く、わずかな流体音すら…まるで、ハリケーンの無声映画でも見ているようです。……これは、幽霊です」


 完璧なステルス性。

 そして、知性を感じさせる、生物的な挙動。

 それは、この場にいる全員の、想像を遥かに超えた、完成度だった。

 カイは、モニターに映し出される、深海を支配する「獣」の姿を、静かに見つめていた。そして、その唇から、歴史の始まりを告げる言葉が、静かに紡がれた。


「――『零潜ぜろせん』、誕生だ」

皆様の声援が、三兄弟の戦いを未来へと繋げます。この物語を多くの人に届けるために、皆様の力をお貸しください!(↓の★で評価できます)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ