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第01話 幸福の在り処(5) 夕焼けの商店街

皆様の声援が、三兄弟の戦いを未来へと繋げます。

ランキング上位を目指し、この物語を多くの人に届けるために、

皆様の力をお貸しください!(↓の★で評価できます)


 一方、長男のテルは、下校の時間を壮大な社会科見学に変えていた。校門を出ると、決められた通学路など存在しないかのように、毎日違う道を選んで帰宅する。それは、彼の好奇心を満たすための探検であり、同時に、彼の支配圏を無意識のうちに広げるための戦略的な行動でもあった。

「テルちゃん、おかえり」

 八百屋のおばあちゃんが、店先に並べた野菜に霧吹きをしながら声をかける。

「これ、弟くんに持ってきな」

と、売り物のつやつやしたトマトを一つ、彼に手渡してくれる。テルは

「ありがとう、おばあちゃん! サクが喜ぶよ!」

と、満面の笑みでそれを受け取った。

 近所の小さな診療所から出てきた、顔なじみの若い看護師が、彼を見つけて茶目っ気たっぷりに話しかけてくる。

「あ、テルくん。またうちのおじいちゃん先生の愚痴、聞いてくれる?」

 不動産屋のおじさんは、店の前でタバコを燻らせながら

「テルくん、また違う道だな! 将来は大物になるぞ!」

と豪快に笑う。

 カレー屋の店主が、店の前で大きな寸胴鍋をかき混ぜながら

「今日のカレーは自信作だぞ!」

と、スパイシーな香りでテルの鼻をくすぐる。

 電気屋のおじいさんが、店のテレビで野球中継を見ながら

「テルくんもドラゴンズファンか!」。

 薬屋の店主が、薬の棚を整理しながら

「風邪ひくなよー」。

 テルの世界は、学校と家という二つの点だけで完結してはいなかった。彼が毎日気まぐれに選ぶ無数の通学路は、街全体に張り巡ぐらされた毛細血管のように、彼の世界に栄養と温もりを運び込んでいた。八百屋のおばあちゃんも、診療所の看護師も、不動産屋のおじさんも、彼にとっては攻略すべきゲームのNPCなどではない。彼が信頼し、また彼を信頼してくれる、かけがえのないネットワークの一部だった。テルは、この温かく、予測可能な世界の中で、魚が水を得るような、絶対的な安心感に包まれていた。


https://youtube.com/shorts/7zhbtT2u7eY?feature=share

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