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第09話 深海の設計図(7) 月明かりの相模湾

 その深夜。

 カイは一人、静まり返ったドックで、水槽の底に沈むX-0を、じっと見つめていた。

 彼は、誰にも告げることなく、X-0を相模湾の静かな入り江へと、秘密裏に持ち出した。

 月明かりが、穏やかな海面を照らしている。

 特殊なVRゴーグルと、感覚フィードバック機能を持つグローブを装着したカイは、目を閉じた。彼の神経は、光ファイバーを通して、X-0の全身に張り巡らされたセンサーと、直結している。

 彼は、もはや機械を「操縦」しているのではない。彼自身が、X-0という「肉体」と、一体化していた。


「前進三十、ピッチ角プラス五、同時に右ヨー七」


 基本動作コマンドを、淀みなく口にし続ける。それは、もはや言葉ではなく、思考そのものだった。

 彼の神業的なコマンド連携に応じ、X-0は夜の海を、まるで本物の生物のように、滑らかに、そして、音もなく泳ぎ回る。

 脊髄モーターが生み出す力強い「うねり」。

 ピエゾ素子が奏でる繊細な「静けさ」。

 カイは、その二つの全く異なる感覚を、自らの神経の中で、完璧に調和させていた。

 操縦を終えたカイは、月明かりに照らされたX-0の美しい姿を見つめ、静かに、しかし、確信を込めて呟いた。


「完璧な『器』だ。だが、これでは戦えない。こいつにはまだ、『魂』が入っていない」


 彼は独りごちた。


「脊髄が生む力強い『うねり』。皮膚が生む繊細な『静けさ』。俺は今、この二つを意識的に連携させているに過ぎない。別々の楽器を、俺という指揮者が、無理やり一つのアンサンブルに束ねているだけだ。これでは、一体の『演舞』が限界だ」

「この二つの音が、思考する前に、自然に一つの『音楽』として奏じられる、そういう『魂』が必要だ」


 カイは、暗号化された通信端末を取り出し、弟のサクに、短いボイスメッセージを送った。


「サク。遠国の魂は、話にならなかった。最高の器はできた。だが、魂がない」

「この獣に、魂を吹き込め。『うねり』と『静けさ』、この二つの力を、完全に、そして自律的に調和させる、全く新しい国産の魂を創れ。お前なら、できるはずだ」


 メッセージは、深海の光ファイバーケーブルを通って、東京の、もう一人の天才の元へと、送信された。

 日本を縛る【軍事の鎖】を内側から断ち切るための、最も鋭利な刃。その刃に「魂」を宿すという極めて困難な仕事が、今、東京にいるもう一人の天才の元へと託された。



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