第08話:プロジェクト・ヤタガラス(6) 眠れる獅子の覚醒 v2
加筆修正しました。令化8年1月18日。
プロジェクト・ヤタガラスが、静かに、しかし、圧倒的な熱量を持って、始動した。
日本中の工場や、大学の研究室で、これまで燻っていた技術者たちが、まるで別人のように、その瞳を輝かせていた。
JDMの設計室では、沖田が、寝食を忘れてアトランティス製チップの解析に没頭している。その隣では、三船が、若い技術者たちに、自らが培ってきた航空力学の知識を、惜しげもなく伝授していた。
東大の研究室では、サクが、ホワイトボードの前で、次々と明らかになる敵の弱点を、子供のような無邪気さで、数式によって証明し続けている。
かつて日本を覆っていた、諦観と、停滞の空気は、どこにもなかった。そこにあるのは、失われた誇りを取り戻し、自分たちの手で未来を創り出すのだという、純粋で、力強い創造の意志だけだった。
数週間後。
国会議事堂を見下ろす、議員会館の一室。
ヤマト・テルは、全国の拠点から送られてくる進捗報告のデータが、光の粒子のように流れる端末を、静かに見つめていた。
データが示すのは、驚異的な解析速度と、次々と生まれる新しい技術の萌芽。それは、彼が信じていた、日本の「ものづくり」の、本当の底力だった。
端末に、サクからの最終報告書が届く。
『アトランティスAIアーキテクチャの構造的脆弱性に関する最終考察』。
その簡潔だが本質を突いたレポートに目を通したテルは、静かに勝利を確信した。
テルは、手元の別の回線を開いた。相手は、内閣総理大臣、藤堂善信。
「総理。ヤタガラスは飛びました。現場の士気は最高潮です」
『……ご苦労。だが、党内の親遠派(城山派)が騒がしいぞ。アトランティスへの技術提供を渋れば、同盟に亀裂が入るとな』
テルは、冷ややかな笑みを浮かべた。
「ご安心を。今回の増産計画の『割り当て権限』は、全て私が握りました。城山先生の選挙区にある下請け工場にも、ふんだんに仕事が回るように調整済みです。これで、彼らもアトランティスより、目の前の仕事を優先せざるを得ないでしょう」
『……食えん男だ。アメとムチで、身内まで飼い慣らすか』
「すべては、総理の悲願のためです。これで、アトランティスに対する『部品供給』という蛇口は、我々が握りました。いつでも、締め上げることができます」
通話を終えたテルは、窓の外にそびえ立つ、国会議事堂のシルエットを見つめた。
その向こうには、この国を縛り続ける、巨大な怪物の幻影が見える。
「――眠れる獅子が、ようやく目を覚まし始めたな」
彼の唇から、静かな、しかし、確かな手応えに満ちた呟きが、漏れた。
「だが、それだけでは足りない。敵と同じ牙を持つだけでは、消耗戦を繰り返すだけだ。我々は、奴らの牙が決して届かない場所から、奴らの心臓を穿つための『新しい爪』を手に入れる」
七年の屈辱の時は、終わった。
日本の、そして世界の歴史を、根底から塗り替えるための、静かなる反撃が、今、始まったのである。
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