第08話:プロジェクト・ヤタガラス(5) 敵の頭脳
会議の熱気が最高潮に達した、その時。
テルの計らいで、特別ゲストとして招かれていた、もう一人の人物に、スポットライトが当たった。
ホログラムスクリーンに、東京大学の一室が映し出される。そこにいたのは、兄であるテルとは全く似ていない、どこか浮世離れした雰囲気を持つ、一人の青年だった。
ヤマト・サク。
彼は、集まったソフトウェア技術者たちを、感情のない、アンドロイドのような瞳で見つめながら、平坦な声で語り始めた。
「ヤタガラスの真の目的は、模倣ではありません」
その静かな一言に、会場の熱気が、すっと引いていく。誰もが、その異質な天才の発する言葉に、全神経を集中させていた。
「敵の頭脳を完璧に理解し、その『限界』を白日の下に晒すこと。それが、皆さんにお願いしたい仕事です」
サクは、手元の端末を操作し、スクリーンに、アトランティス製AIの複雑なアーキテクチャ図を映し出した。
「解析は、ほぼ完了しています。結論から言えば、このAIのアーキテクチャは、中央集権型。全ての判断を、単一の強力なコアに依存しています。これは、指揮系統が明確である一方、通信が途絶した際の脆弱性が、極めて高いことを意味します」
彼は、スクリーンを切り替え、シミュレーション映像を映し出した。メインサーバーとの通信が、強力なジャミングによって1秒間途絶した、という想定。その瞬間、編隊を組んで飛行していたドローンは統制を失い、互いに衝突し、無力な鉄クズとなって墜落していく。
「ご覧の通りです。彼らの魂は、蜘蛛の糸のように細い通信リンクで、かろうじて繋がっているに過ぎない」
サクの声は、淡々としていたが、その内容は、技術者たちに衝撃を与えた。
「さらに、このアーキテクチャは、自律分散型のハードウェア制御には、思想的に、全く向いていません。ひとつの脳が、無数の手足を個別に動かしようとするため、複雑な連携動作には、原理的に、致命的な遅延が生じる。これが、彼らの限界です」
サクは、まだ、その先の解答は提示しない。ただ、圧倒的な事実とデータによって、「模倣の先に、我々の勝利はない」という、冷徹な結論だけを、技術者たちに突きつけた。
集まった日本のトップエンジニアたちは、その解析の深さと、敵が抱える明確な「アキレス腱」の存在に気づき、畏敬の念を抱いていた。
自分たちがこれから挑むのは、単なる物真似ではない。敵の心臓部に、メスを入れる、知的な解剖なのだと。




