第08話:プロジェクト・ヤタガラス(3) ヤタガラスの翼
テルは、壇上のホログラムスクリーンに、一枚の画像を投影した。
そこに描かれていたのは、漆黒の闇を背景に、金色の三本の足で大地に立つ、神話の鳥。八咫烏。
「そして、その中核となるのが、この国家的リバースエンジニアリング計画**『プロジェクト・ヤタガラス』**だ」
テルの声が、静まり返った会議室に響き渡る。
「表向きは、これまで通り、アトランティスの忠実な下請けを演じ続ける。彼らの要求するドローンを、彼らの仕様書通りに、完璧に作り上げる。だが、その水面下で、我々は、彼らの持つ全ての技術を、部品の一つ、コードの一行に至るまで、完全に吸収し、解析し、そして、超越する」
それは、あまりにも大胆で、危険な、二正面作戦だった。
「これは戦争ではない。戦わずして、失われた技術的優位を奪還するための、静かなる闘争です。そして、その闘争の最前線に立つのは、政治家でも、軍人でもない。皆さん、日本の『ものづくり』の魂を受け継ぐ、技術者なのです」
その言葉は、老航空技術者、三船四郎の心の、最も深い場所に突き刺さった。
彼は、震える声で、立ち上がって質問した。その声には、七年間の屈辱と、それでも消えなかった、空への憧れが、滲んでいた。
「我々は……我々は本当に、もう一度、空を、飛べるのですか…? 我々自身の、翼で…」
その瞬間、三船の脳裏に、過去の屈辱の歴史が、フラッシュバックした。
GHQによる、航空機研究の全面禁止を告げる、冷たい指令書。
技術の粋を集めて開発した国産旅客機YS-11が、政治的な思惑によって、商業的には失敗に終わった、あの日の無念。
そして、記憶に新しい、MRJプロジェクトの凍結。その全ての節目に、アトランティスの、見えざる影が、ちらついていた。
テルは、壇上から降りると、三船の前まで歩み寄り、その老技術者の目を、まっすぐに見つめた。そして、力強く、頷いた。
「ええ。必ず。今度こそ、誰にも邪魔されずに、我々自身の翼で。そのために、皆さんのお力が必要なのです、三船さん」
三船は、涙をこらえるように、唇を固く結んだ。そして、絞り出すような声で、しかし、その背筋は、若い頃のように、凛と伸びていた。
「……承知。この老いぼれの命、お預けいたす」
彼は、深く、深く、この国の未来を託すべき若き指導者に、頭を下げた。
それは、一人の技術者が、失われた夢を取り戻すための、魂の誓いだった。
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