第07話:三者三様の初手(7) 真理の探究へ
東大、工学部。
ヤマト・サクの研究室は、外界の喧騒から完全に隔絶された、静寂の「聖域」だった。
彼の興味は、ただ一つ。兄たちがこれから始めようとしている、壮大な戦いの、その土台となる「真理」の探究にのみ、向けられていた。
壁一面を覆う巨大なホワイトボードは、常人には理解不能な、複雑な数式と、幾何学的な図形で、埋め尽くされている。
エネルギー変換効率を示す方程式。流体力学のシミュレーション。そして、生物の神経網を模したような、無数のノードが繋がるネットワーク図。
それらが渾然一体となり、巨大な一つの生命体の設計図のようにも見えた。
彼の指導教官は、サクの常人離れした才能を認めつつも、その危うさを、常に心配していた。
「ヤマト君。君の研究は、確かに素晴らしい。だが、そのアイデアが、本当に世に出て、実-用化されるためには、政治と、カネという、非常に俗な世界を、通らねばならんのだよ。君のような純粋な研究者が、その泥沼の中で、潰されてしまわないかと、私は心配でならん」
教官の心からの忠告に、サクは、数式を書き殴っていた手を止め、ゆっくりと振り返った。
その瞬間、彼のペルソナは、完全に切り替わっていた。兄たちの前で見せる、無邪気な「わがまま大王」の姿は消え、一切の感情を読み取らせない、無機質なアンドロイドの顔になっていた。
「……ご心配には、及びません」
サクは、抑揚のない、平坦な声で答えた。
「そのための、兄がいますので」
その言葉には、兄たちへの、絶対的な信頼が込められていた。
自分は、ただ、純粋な真理を探求する。
その研究成果を、現実の世界で、国家を動かす力へと変えるのは、兄たちの役割だ。
三位一体の盟約。その役割分担は、サクの中では、宇宙の法則と同じくらい、自明で、美しい真理だった。
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