表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/43

第07話:三者三様の初手(6) はぐれ者たちの集結

 絶望の中で、カイは、組織の片隅で燻る「はぐれ者」たちに、目をつけるようになった。

 常識や前例に縛られず、自らの信じる「本質」を追求するが故に、組織から疎まれている異端児たち。彼らこそが、新しい時代の戦いを創造するための、原石だとカイは直感していた。

 最初に声をかけたのは、整備格納庫の片隅で、黙々とドローンの分解と改造に没頭していた、若い女性整備士だった。天野ミキ。兵器のスペックを暗唱できるほどの軍事オタクであり、その情熱故に、周囲からは「変わり者」扱いされていた。


「……面白いことをしているな」


 カイが背後から声をかけると、ミキはビクリと肩を震わせた。


「これは…規定外の改造だ。規則違反だぞ」


「規則が、国を守ってくれるんですか」


 ミキは、食ってかかるように言った。


「このドローンのモーター、アトランティス製ですけど、明らかにオーバースペックです。もっと小型で、省電力な国産モーターに換装すれば、航続距離は1.5倍に伸びるのに。でも、そんなこと提案したって、誰も聞いてくれない。『仕様書通りにやれ』って、言うだけ」


 その瞳の奥に宿る、純粋な探求心と、それを認めない組織へのフラストレーション。カイは、彼女こそが、自らの構想する「獣」の肉体を創り上げるにふさわしいと確信した。

 次にカイが向かったのは、薄暗いソナー室だった。

 古賀治。かつては「黄金の耳」を持つとまで言われた伝説的なソナーマンだったが、とある演習中の些細なミスで出世コースから外れ、今では閑職に追いやられていた。


「古賀さん」


 カイの静かな呼びかけに、古賀はモニターから目を離さずに答えた。


「……なんだ、若いの」


「あんたの耳なら、聞こえるはずだ」


 カイは、古賀の隣に立ち、ソナーが映し出す、静かな海の映像を見つめながら言った。


「この国が、ゆっくりと、確実に、沈んでいく音が」


 古賀の指が、ピタリと止まった。


「……聞こえすぎて、耳を塞ぎたくなるときもあるさ」


「俺は、その音を、止めたい。あんたの、その耳の力が必要だ」


 カイの瞳に宿る、揺ぎない覚悟を見て、古賀は、長年忘れていた、海の男としての魂が、再び燃え上がるのを感じていた。

 最後にカイが訪れたのは、基地のサーバー管理室だった。

 そこに、森田悟はいた。

 コミュニケーション能力に致命的な欠陥を抱えているが故に、誰とも目を合わせようとせず、常にヘッドフォンで外界の音を遮断している。だが、彼の指先がキーボードの上を舞う時、それは神がかった芸術となり、いかなる鉄壁のセキュリティも、彼の前では砂の城のように崩れ去る。

 カイは、彼の前に、一枚のデータチップを置いた。


「……なんだ、これ」


 森田が、ぶっきらぼうに尋ねる。


「この国の、防衛システムの設計図だ。穴だらけのな」


 カイは、淡々と告げた。


「お前のそのコードで、この国の防衛システムを、根底から書き換えろ。誰にも気づかれずに、誰にも破られずに、俺たちの『聖域』を創るんだ」


 森田は、初めてヘッドフォンを外し、カイの顔をまじまじと見つめた。そして、データチップを手に取ると、ニヤリと、子供のような笑みを浮かべた。


「……面白そうだ」


 はぐれ者たちが、一人、また一人と、カイの元に集結していく。

 それは、まだ名前のない、小さな、しかし、この国の未来を賭けた、秘密のチームが産声を上げた瞬間だった。

皆様の声援が、三兄弟の戦いを未来へと繋げます。この物語を多くの人に届けるために、皆様の力をお貸しください!(↓の★で評価できます)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ