第07話:三者三様の初手(6) はぐれ者たちの集結
絶望の中で、カイは、組織の片隅で燻る「はぐれ者」たちに、目をつけるようになった。
常識や前例に縛られず、自らの信じる「本質」を追求するが故に、組織から疎まれている異端児たち。彼らこそが、新しい時代の戦いを創造するための、原石だとカイは直感していた。
最初に声をかけたのは、整備格納庫の片隅で、黙々とドローンの分解と改造に没頭していた、若い女性整備士だった。天野ミキ。兵器のスペックを暗唱できるほどの軍事オタクであり、その情熱故に、周囲からは「変わり者」扱いされていた。
「……面白いことをしているな」
カイが背後から声をかけると、ミキはビクリと肩を震わせた。
「これは…規定外の改造だ。規則違反だぞ」
「規則が、国を守ってくれるんですか」
ミキは、食ってかかるように言った。
「このドローンのモーター、アトランティス製ですけど、明らかにオーバースペックです。もっと小型で、省電力な国産モーターに換装すれば、航続距離は1.5倍に伸びるのに。でも、そんなこと提案したって、誰も聞いてくれない。『仕様書通りにやれ』って、言うだけ」
その瞳の奥に宿る、純粋な探求心と、それを認めない組織へのフラストレーション。カイは、彼女こそが、自らの構想する「獣」の肉体を創り上げるにふさわしいと確信した。
次にカイが向かったのは、薄暗いソナー室だった。
古賀治。かつては「黄金の耳」を持つとまで言われた伝説的なソナーマンだったが、とある演習中の些細なミスで出世コースから外れ、今では閑職に追いやられていた。
「古賀さん」
カイの静かな呼びかけに、古賀はモニターから目を離さずに答えた。
「……なんだ、若いの」
「あんたの耳なら、聞こえるはずだ」
カイは、古賀の隣に立ち、ソナーが映し出す、静かな海の映像を見つめながら言った。
「この国が、ゆっくりと、確実に、沈んでいく音が」
古賀の指が、ピタリと止まった。
「……聞こえすぎて、耳を塞ぎたくなるときもあるさ」
「俺は、その音を、止めたい。あんたの、その耳の力が必要だ」
カイの瞳に宿る、揺ぎない覚悟を見て、古賀は、長年忘れていた、海の男としての魂が、再び燃え上がるのを感じていた。
最後にカイが訪れたのは、基地のサーバー管理室だった。
そこに、森田悟はいた。
コミュニケーション能力に致命的な欠陥を抱えているが故に、誰とも目を合わせようとせず、常にヘッドフォンで外界の音を遮断している。だが、彼の指先がキーボードの上を舞う時、それは神がかった芸術となり、いかなる鉄壁のセキュリティも、彼の前では砂の城のように崩れ去る。
カイは、彼の前に、一枚のデータチップを置いた。
「……なんだ、これ」
森田が、ぶっきらぼうに尋ねる。
「この国の、防衛システムの設計図だ。穴だらけのな」
カイは、淡々と告げた。
「お前のそのコードで、この国の防衛システムを、根底から書き換えろ。誰にも気づかれずに、誰にも破られずに、俺たちの『聖域』を創るんだ」
森田は、初めてヘッドフォンを外し、カイの顔をまじまじと見つめた。そして、データチップを手に取ると、ニヤリと、子供のような笑みを浮かべた。
「……面白そうだ」
はぐれ者たちが、一人、また一人と、カイの元に集結していく。
それは、まだ名前のない、小さな、しかし、この国の未来を賭けた、秘密のチームが産声を上げた瞬間だった。
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