第07話:三者三様の初手(4) 永田町という魔窟へ v2
加筆修正しました。令化8年1月18日。
令化二十五年、十一月初旬。
秋晴れの空の下、国会議事堂は、その白亜の威容を誇っていた。シンメトリーに徹した荘厳な建築様式は、見る者を圧倒する、国家権力の象徴。だが、その磨き上げられた花崗岩の壁の奥で、どれほどの欲望と謀略が渦巻いているのか、知る者は少ない。
初登院するヤマト・テルは、赤絨毯が敷かれた中央階段を、一歩一歩、踏みしめるように上っていた。周囲には、同じように初登院の喜びを隠しきれない新人議員たちの、高揚したざわめきがあった。だが、テルの目には、彼らが見ているものとは、全く異なる光景が映っていた。
彼の目には、見えていた。
この、国家権力の中枢に、禍々しい幻影が、とぐろを巻いているのが。
議事堂の天井から、無数の鎖が垂れ下がっている。
財務省の方角から伸びる、重く、鈍い輝きを放つ【貨幣の鎖】。
防衛省を雁字搦めにする、錆びついた鉄の【軍事の鎖】。
霞が関の各省庁に絡みつき、その活力を吸い上げる、青と緑の【技術の鎖】と【資源の鎖】。
そして、それら全ての根源となり、この議事堂の隅々まで、まるで赤い血管のように張り巡ぐらされている、【思想の鎖】。
「――ここが、怪物の心臓か」
テルは、誰にも聞こえない声で呟いた。
その時、彼のスマートフォンが短く振動した。テルは周囲の新人議員たちが記念撮影に興じているのを横目に、足早に柱の影へと移動し、通話ボタンを押した。
「……ああ、私だ。例の件、経産省の次官とは話がついたか?」
『は、はい。大和先生のおっしゃる通り、アトランティス側からのドローン増産要求のデータを渡しました。彼らも、現状の契約には不満タラタラでしたので……先生の「計画」に、興味津々です』
「いい反応だ。すぐに極秘の勉強会をセットしろ。メーカーの技術トップも呼べ。――ああ、場所は議員会館じゃない。私の事務所の裏口を使え」
テルは通話を切ると、何食わぬ顔で赤絨毯の列に戻った。
他の議員たちが「バッジをつけた喜び」に浸っている間に、彼はすでに、この国の産業構造を書き換えるための、最初のドミノを倒し始めていた。
彼は、この巨大な怪物を、内側から喰い破るために来たのだ。そして、そのための、最も強力な武器であり、同時に、最も危険な猛獣使いでもある、藤堂善信という庇護者を、彼は手に入れた。
廊下ですれ違った、比例復活を果たした城山派の議員たちが、聞こえよがしに囁き合う。
「あれが、噂の大和か…」
「城山先生をあんな汚い手で…。いつか、必ず報いを受けることになるぞ」
テルは、その憎悪に満ちた視線を背中に感じながらも、表情一つ変えなかった。
光と、影。味方と、敵。
永田町という魔窟での、テルの表と裏の戦いが、今、静かに始まった。
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