第01話 幸福の在り処(3)
第二章:陽だまりの談笑
兄弟を送り出した後、シホはベビーカーにサクを乗せて家を出た。目的地は、近所に住むママ友、アキちゃんの家だ。活気のある商店街を抜けると、八百屋や魚屋の威勢の良い声が飛び交っている。
道中、サクは動くものすべてに王様のように指をさし、母にその正体を報告するよう求めた。
「ブゥ!」
線路を駆け抜ける電車を指さす。
「グゥ!」
道路工事現場でアームを伸ばすショベルカーを指さす。
シホは、その一つ一つに「電車さん、速いねぇ」「ショベルカーさん、力持ちだねぇ」と、まるでおとぎ話の登場人物に語りかけるように、優しく応えるのだった。
アキちゃんの家に着くと、大きなお腹を愛おしそうにさする彼女が、笑顔で迎えてくれた。二人はお茶を飲みながら、とりとめのない会話に花を咲かせる。
「男の子三人だと、毎日が戦争みたいでしょ」
「ふふ、まあね。でも、賑やかで羨ましいな。うちも、もうすぐ生まれてくるこの子が男の子だったら、カイくんみたいに強くなってくれるかしら」
アキちゃんは、愛おしそうにお腹を撫でた。その満ち足りた表情と、窓から差し込む柔らかな光、お茶の温かい香りが混じり合い、シホの心に完璧な幸福の一場面として焼き付いた。
帰り道、公園に立ち寄った。しかし、サクは他の親子が自分たちのテリトリーに近づいてくる気配を察知すると、自己防衛本能からピタリと動きを止め、ベビーカーの中でぐっすりと寝たふりを始める。その不器用な可愛らしさに、シホは思わず笑みをこぼした。この内気で繊細な三男が、これから先の社会でうまくやっていけるだろうか。そんな母親らしい一抹の不安が、シホの胸をかすめた。