第06話 アングラの誓い(6) それぞれの戦場へ
盟約から、一年後。令化二十五年、春。
三つの歯車は、それぞれの場所で、静かに、しかし、力強く、回り始めていた。
名古屋市港区の古びた選挙事務所の一室。
ヤマト・テルは、次期衆議院議員総選挙への、無所属での出馬を決意していた。彼の目の前には、選挙区の地図と、有権者のデータが、びっしりと書き込まれたホワイトボードが置かれている。彼は、もはや理想を語るだけの青年ではない。勝利という結果を得るために、あらゆるカードを計算し尽くす、冷徹な勝負師の顔をしていた。
海上自衛隊、横須賀基地。
ヤマト・カイは、真新しい制服に身を包み、入隊式に臨んでいた。彼の周囲には、国家を守るという志に燃える、同世代の若者たちが整列している。だが、カイの目が見ているのは、彼らが見ているものとは、少し違っていた。彼は、この巨大な組織の、旧態依然としたシステムの中に潜む、構造的な欠陥と、改革の糸口を、静かに探っていた。彼の戦場は、もはやストリートファイトではない。国家という、巨大な組織そのものだった。
東京大学、本郷キャンパス。工学部の一室。
ヤマト・サクの研究室の、壁一面を覆う巨大なホワイトボードは、常人には理解不能な、複雑な数式と、幾何学的な図形で、埋め尽くされていた。エネルギー変換効率を示す方程式、流体力学のシミュレーション、そして、生物の神経網を模したような、無数のノードが繋がるネットワーク図。それらが渾然一体となり、巨大な一つの生命体の設計図のようにも見えた。
彼は、兄たちに約束した「美しいアイデア」の、その入り口に立ったばかりだった。
この国のエネルギー、食料、そして防衛。その全てを統合する、壮大なシステムの構築。
その核心となる「魂」の探求が、今、静かに始まった。
三つの戦場。三つの運命。
歴史の螺旋は、今、確かに、新たな段階へと、その歩みを進め始めた。
誰もまだ、そのことに、気づいてはいなかった。
これにて、第一部完結! ご愛読、ありがとうございました。
第二部は、いよいよ三兄弟が動きだします。引き続き週2ペースで公開していきますのでどうぞご期待ください。
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