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第01話 幸福の在り処(2)
第一章:風光る通学路
テルとカイは、紫陽花が雨露に濡れて鮮やかな色彩を放つ坂道を並んで下っていく。潮風が心地よく吹き抜け、二人の髪を優しく揺らした。
「あ、タナカさん、おはようございます!」
交番の前で、パトロールの準備をしていた若い警官が、テルの快活な声に振り返った。顔なじみのタナカ巡査だ。
「おう、テルくんにカイくん、おはよう! 今日も元気だな!」
タナカ巡査は、にかっと白い歯を見せて笑う。テルが人懐っこく世間話に興じる傍らで、カイは黙ったまま、タナカ巡査の腰にある拳銃のホルスターを、憧れの眼差しでじっと見つめていた。黒い革の鈍い光沢、そこに収められた絶対的な力の象徴。カイの目には、それが悪を制し、人々を守るための聖なる武具のように映っていた。
タナカ巡査は、カイのその真剣な視線に気づき、屈託なく笑った。
「カイくんも、大きくなったら警察官になるか? 悪い奴らをやっつけて、みんなを守る、カッコいいぞ!」
カイは少し照れたように俯いたが、やがて顔を上げ、力強くこくりと頷いた。その純粋な決意に、テルもタナカ巡査も、自然と微笑んでいた。