第02話 灰色の濁流(5) 灰色の世界
意識を失った父子を乗せた小さなボートは、もはや水とは呼べない、液状化し猛り狂う都市そのものの濁流の中で、無数の瓦礫の一つに過ぎなかった。
その光景は、恐ろしい速さでそのスケールを拡大していく。
見慣れた街路は消え、瓦礫が渦巻く水路へと姿を変えていた。ランドマークだった建物は無力な障害物となり、抗う術もなく崩れ落ちていく。
その先には、この国の産業の大動脈であったはずの巨大な港が無残に引き裂かれている。色とりどりのコンテナはおもちゃ箱をひっくり返したように散乱し、巨大なクレーンは鋼鉄のグロテスクな彫刻へと捻じ曲げられていた。
沿岸の石油コンビナートはさながら巨大な葬送の薪となり、天を焦がすほどの黒煙を噴き上げ、繁栄の時代の終わりを告げる禍々しい墓標を描いていた。海岸線に沿って走っていた高速道路や国道は跡形もなく消え去り、国土は完全に分断されている。
この高さからは、もはや悲鳴も、個々の悲劇も存在しない。
そこにあるのはただ、静かで、無慈悲な抹消のプロセス。
情け容赦ない手によって、地図が暴力的に描き換えられていく、冷徹な光景だけだった。
それは、自然災害という仮面を被ってはいたが、この国のどこかに巣食う構造的な欠陥がもたらした、必然の帰結のようにも見えた。
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