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第02話 灰色の濁流(3)  灰色の壁

皆様の声援が、三兄弟の戦いを未来へと繋げます。

ランキング上位を目指し、この物語を多くの人に届けるために、

皆様の力をお貸しください!(↓の★で評価できます)


 マンションの麓にたどり着いた時、空気が変わった。

 潮の匂いが、異常なほど濃密になっている。そして、地鳴りとは違う、無数の木々がへし折られ、建物が軋むような、低く、不気味な音が、背後から迫ってきていた。


「来たぞ!」


 ハジメが叫ぶ。

 振り返ったテルの目に、信じがたい光景が映った。

 水平線の彼方が、黒く盛り上がっている。それは波ではなかった。瓦礫や車、家屋を無数に巻き込みながら膨張する、意志を持った巨大な灰色の壁。その壁が、街を、生命を、音もなく呑み込みながら、圧倒的な速度でこちらへ迫ってきていた。

 一家は最後の力を振り絞り、高層マンションの非常階段を駆け上がった。一段、また一段と、死から逃れるように。


「シホ! サクを頼む! 先に行け!」


 ハジメが叫ぶ。シホはサクを強く抱きしめ、必死で階段を駆け上がる。三歳のサクの体重が、鉛のように重くのしかかる。やがて、彼女は三階の踊り場にたどり着いた。

 その、直後だった。

 ゴオオオオオオオッ!

 灰色の濁流が、マンションに激突した。凄まじい衝撃に、建物全体が揺れる。

 濁流は、一階、二階と、猛烈な勢いで駆け上がってくる。当時、二階と三階のちょうど中間にいたハジメとテル、カイの足元を、奔流が攫った。


「うわあああっ!」


 テルの体が、奔流に引きずり込まれそうになる。その小さな手を、ハジメが鋼のような力で掴んだ。もう片方の手は、カイの腕を固く握りしめている。


「絶対に、手を離すな!」


 ハジメは叫んだ。だが、自然の暴力は、人間の意志など容易く凌駕する。瓦礫を巻き込んだ水の塊は、容赦なく三人の体を打ち据え、その握力を奪っていく。


「お父さん!」

「テルくん!」


 二人の息子の悲鳴。

 三階の踊り場から、シホがその光景を見ていた。愛する夫と、二人の息子が、灰色の奔流に呑み込まれていく。


「あなたーっ! テル! カイ!」


 彼女の絶叫は、全てを破壊する轟音の中に、虚しくかき消されていった。

 ハジメは、凄まじい力に耐えきれず、ついに体勢を崩した。三人は、一つの塊となって、濁流の中に引きずり込まれていく。シホの目に映った最後の光景は、暗く冷たい水の中へと消えていく、三つの小さな影だった。

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