童歌の本当の意味
めは出て はなは出ない
どうして はなは出ないのじゃ?
箱神様は何しとる?
ちっと通してくだしゃんせ
五つ星様は容赦せぬ
くもの張ったワナを抜け
誰も通さぬ 参ります
行きはよいよい 帰りは怖い
怖いながらも
めは出て はなも出る
ーー
「源田のおばば様……」
「何じゃい、波栄ちゃん?」
「大丈夫ですか?」
「まあ、何とかの……」
ここはとある僻地にある墓場。
童歌が風にのり楽しそうに聞こえる中、功の祖母と波栄は二人寂しく並んでいた。
波栄はきゃしゃな体つきの長い髪の女である。
そして、波栄は海女の見習いで功の祖母の下修行をしていた。
カナカナと蜩が鳴き止む事を知らぬ中、波栄達は涙も流さずにある墓を見つめている。
その墓には功の名がくっきりと刻まれていた。
そして、風は止み、風にのって聞こえてきた童歌ももう聞こえない。
「シュッ……」
そんな中功の祖母がマッチに火を灯し、その火を線香に移した。
線香の香りは一気に広がり功の祖母たちを包み込む。
だが、湿気を帯びた真夏の空気のせいかそれ以上線香の香りは広がらなかった。
それは、まるでまだ功の魂がこの世に留まりたいと言っているかのように。
そんな功の魂を慰める為、二人は瞳を閉じ静かに手を合わせる。
すると、功の祖母の頬を涙の道が静かに通った。
だが、あまりの速い功との別れに功の祖母は蜩の声が聞えなくなる程泣きじゃくった。
その功の祖母を支える波栄の頬にも涙の道がくっきりと出来ていた。
功が海に入った次の日、功は海底の岩に引っ掛かった状態で見つかった。
その功の体には海藻が絡み、その手にはしっかりと鮑が握られていたのだ。
そして、その事実を知った功の母は塞ぎ込み、功の祖父はその傍にいる。
なので功を荼毘に付す役目は功の祖母となった。
そして、今に至る。
「なあ、波栄ちゃんや。どうして功は海に入ったんじゃろうな……。
あたしゃ曇りだから入っちゃいかんと言ったのにの……」
泣きじゃくりながら功の祖母は声を絞り出すように出して聞いた。
「分かりません……。
でも、せめて功さんが童歌の意味を知っていたらこうはならなかったのかもしれません……。
それに私があの時おばば様に知らせておけばもしかしたら功さんは……」
すると、波栄も声を絞り出すように出し答えた。
この地に伝わる童歌。
この童歌の真意はこうだ。
ーー
目は出て 鼻は出ない
どうして 鼻は出ないのじゃ?
箱神様は何しとる?
ちっと通してくだしゃんせ
五つ星様は容赦せぬ
雲の張ったワナを抜け
誰も通さぬ 参ります
行きはよいよい 帰りは怖い
怖いながらも
目は出て 鼻も出る
ーー
海女は素潜りで海底の深い処で獲物を獲る。
その時深い海の底から浮上すると目の前に海の上の世界が見える。
だが、見えるだけで中々息が出来ない。
つまり、中々鼻は海面に出ないのである。
そんな海女達が身に着ける魔よけのお守りにセーマンドーマンと呼ばれるものがある。
このセーマンドーマンと呼ばれる魔除けのお守りは、
龍宮に引き込まれる事を防ぐ為のおまじないとされている。
ちなみに、セーマンは星形の印で、ドーマンは格子状の印である。
そのセーマンの星形は一筆書きで、始めも終わりもない。
その事から魔物の入り込む余地がないとされ、さらに始まってから元の場所に戻る事から、
海女達が無事に戻って来られるように」との祈りを込めたともされている。
これが五つ星様の正体だ。
ならば箱神様であるドーマンはどうやって海女達を守っているのか。
それは、格子は多くの目とされ、ドーマンはその多くの目で魔物を見張り海女達を守っているのだ。
これらの魔よけの力により海に潜む魔物から海女は守られている。
だが、そんな海女達を脅かす魔物にはトモカズキと呼ばれるものがいる。
トモカズキは海に潜る者にそっくりに化け、その頭には尻尾の長い鉢巻が巻かれ、
人を暗い処に誘ったり鮑を差し出すと言われている。
もし、このトモカズキの誘いに乗ってしまうと命を奪われると海女達は恐れているのである。
そして、トモカズキが現れるのは曇天の日とされる。
これらの意が込められたのが、この地に伝わる童歌なのだ。
功はこの童歌の意味を勘違いした揚げ句、祖母の忠告を聞かなかった。
だから、功は命を堕としたのである。
それでなくとも功は裕司に化けた魔物に狙われていた。
何故それが分かったのかというと、それは波栄がその予兆を見ていたからである。
そう、あの日功は裕司のアパートに行った。
だが、そのアパートは約二年前に火事で全焼しており跡形もない。
そして、そこから発見された焼死体の身元の名は、山川 裕司。
功の幼馴染である。
その場所の付近の海で波栄はあの日の夜、こっそりと海女の修行をしていた。
だが、海から上がると功が一人でいるにも関わらず楽しそうに誰かと話しているのを見てしまった。
そして、気味が悪くなった波栄はその場から逃げたのだった。
さらに発見された功のスマホの動画の中でも功は裕司の名を何度も呼んでいた。
もしかしたら功は裕司に化けた魔物ではなく、彷徨う裕司の魂に狙われていたのかもしれない。
だが、今となってはそんな事はどうでも良い。
もう功は戻って来ないのだから。
それから功の祖母と波栄が泣き止むとまた蜩の鳴き声が響いたがあの童歌は聞こえなかった。
いかがでしたでしょうか?
今作で私、紅pの「夏のホラー2025」出展作品は終了です♪
まあ、ホラー初心者ですので恐怖感は少なかったかと思われますが許してくださいな(汗)
ちなみに今作に登場している【セーマンドーマン】。
これらは本当に存在します。
それに【トモカズキ】も海女さん達に恐れられている魔物の類です。
が、あの変な童歌は私の作詞でございやんす♪
決して、あんな変な歌は存在しませんので悪しからず!