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長い髪の女

 裕司と別れてから功は眠れない夜を過ごした。

 それは、熱帯夜だからだろうか?

 いや、今は寒いぐらいある。

 盆の真っ最中にこの寒さは異常だ。

 きっと、あの女を見たせいだろう。

 瞳を閉じている功がそう考えていると突如、功の前にあの長い髪の女が姿を現したのだ。

 その長い髪の女は、はっきりと顔は見えないがにたりと笑って功に手招きしている。

 その女を見た功は声も出せず寒いはずなのに汗が大量に出てきた。

 そして功は息苦しくなり身動きが取れなくなった。

 ぺたん……。ぽとん……。ぴちゃ……。

 その功を見た女は髪から滴り落ちる水を落としながら徐に近づいて来る。

 そして、その女は功の目の前まで来た。

 だが、それでもその女の顔は分からない。

 分かっているのは、にたりと笑っている事だけ。

 そして、まだ功は動けない。 

 これは金縛りか!?

 どうにかこの女から離れなくてはいけない!!

 功は強く願い声にならない声で叫んだ。

 すると、功は 目を開ける事が出来た。

 だが、そこにはあの女はいなかった。

「よ、良かった……。夢か……」

 汗だくの功はそのまま瞳を閉じた。

 疲労困憊で眠るどころか食欲もない。

 だが、どこからか功の名を呼ぶ声がする。

 そう、母だ。

 はっきり言って、今は母の小言に付き合っている余裕はない。

 なので功は母を無視し家を出る事にした。

 そんな功が外に出るとまるで功の今の気分をそのまま描いたようなどんよりとした曇り空だった。

 それなのに、またあの童歌を楽しそうに歌う子供の声がする。

ーー

 目は出て 花は出ない

 どうして 花は出ないのじゃ?

 箱神様は何しとる?

 ちっと通してくだしゃんせ

 五つ星様は容赦せぬ

 蜘蛛の張った罠を抜け

 誰も通さぬ 参ります 

 行きはよいよい 帰りは怖い

 怖いながらも

 目は出て 花も出る

          -- 

「きゃはは!」

「あはは!」

 無邪気な子供の笑う声が飛び交う。

 何が言いてえんだ?

 芽が出たら花は咲くだろうが!

 何で出ねえとか言ってんだ!!

 意味分かんねえ歌で笑ってんじゃねえぞ!!

 功は苛立った。

 何か子供達に言ってやらなきゃ気がすみそうにはなかった。

 すると、そんな功はまた声を掛けられた。

「功、どうしたんだい?」

「ば、ばっちゃん!?」

 それは功の祖母だった。

 功の祖母は海女をしている。

 なので普段ならこの時間にはいないはずだった。

「ばっちゃんこそどうしたんだよ? もう海はいいのか?」

「ああ。今日はこの天気だからね。海に潜っちゃいかんのよ」

「ばっちゃん、何言ってんだ?

 今日は天気予報では雨は降らないって言ってたぞ?

 それに、風もあまり吹かないみたいだし……。

 ばっちゃんの好きな海女漁すればいいじゃんか!」

 功は祖母の事は嫌いではなかった。

 だから普通に話してもイラっとしなかった。

 そんな祖母との話は続く。

「今日は曇りだから出来んのよ

 功。お前も海に潜ったらあかんよ」

「はぁ……」

「んじゃ、ばっちゃんはちょっと出かけるけんね」

「分かった。気ぃつけるんだぞ」

 そう言った功は祖母を見送った

 暫くすると祖母は見知らぬ女性と合流した。

 と言うより、その女性がすっと祖母の後ろを歩いていたのだ。

 だが、功はその女性を見て言葉を失った。

「ああ……、ああ、あの女は昨日の女!?」

 そう、功が見た女は昨日見た髪の長い女。

 昨日、夢に出て来た女だったのだ。

「あいつ! ばっちゃんに何をする気だ!?」

 そう叫んだ功が祖母を追い掛けたが祖母もその女の姿も何処にも見当たらない。

 功に不安が募る。

「ばっちゃん! 何所だ?」

 功がその不安を振り払うように叫びながら祖母を探していると、

功は後ろから左肩を、ポンッと叩かれた。

「うわあ!?」

「ははっ! どうしたんだよ、功。そんなに驚いてさ?」

「ゆ、裕司か……。驚かすなよ!!」

「悪かったって! んで、どうしたんだよ?」

「そ、それが……」

 功は先程あった事を裕司に話した。

 すると、裕司は一緒に祖母たちを探し出した。

 だが一向に祖母たちの姿は見当たらない。

 そして、功達が祖母を探し続けていると昼を過ぎていた。

「ばっちゃん、何処に行ったんだ!!」

 汗だくの功が声を荒げたその時だった。

 裕司が功の下に走って来た。

「おーい、功! お前のばあちゃんいたぞ!」

「えっ!? 本当か! 何所にいるんだ?」

「それがさ、海女さんの集会があったみたいで、もうその集会が終わってお前の家に帰ったみたいだ」

「何だよぉ、それ……」

 裕司の報告を聴いた功は、へなへなとその場にしゃがみ混んでしまった。

「お、おい功!? 大丈夫かよ?」

「駄目かもしんねえ……」

「まあそれだけ汗だくだもんな……。

 そうだ功! 今から泳ぎに行かねえか?

 昔一緒に泳いだあの岩場にさ!」

 裕司が言う岩場とは功と裕司が子供の時分によく行った岩場だ。

 そこは洞穴がありそこに潜れる場所がある。

 そこでは日差しも遮られ快適に海水浴が出来るのだ。

「いいねぇ! 久しぶりに泳ぐか!」

「うしっ! じゃあ行くか!」

 功は裕司の誘いに乗った。

 そらはまだどんよりとした曇り空だというのに……。

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