再会と遭遇
〽 めは出て はなは出ない
どうして はなは出ないのじゃ?
箱神様は何しとる?
ちっと通してくだしゃんせ
五つ星様は容赦せぬ
くもの張ったワナを抜け
誰も通さぬ 参ります
行きはよいよい 帰りは怖い
怖いながらも
めは出て はなも出る
ーー
ここは、とある僻地。
ここに、こんな不思議な童歌がある。
こんな変な童歌なんて、都会では聞いた事がない。
だが、ここでは子供達が平気でそれを歌っている。
そんな僻地に、玄田 功はいる。
功は一八歳の高校三年生だった。
功は両親の離婚により母方に引き取られ、夏のある日、母の実家であるこの僻地にいるのだ。
いつ以来だろうか。
こんな何もない僻地に下り立つのは。
そう、小学校に上がる前ぐらいだろう。
それ以降は何もないこんな所には近づかなかったのだから。
そんな処で功はこれから生活していかなくてはならなくなった。
高校も辞めさせられ、大学もあきらめさせられ、
いたくもないこんな僻地に暫く生活を強いられた揚げ句、今年のこの酷暑。
功はイライラしていた。
それに加え、こんな変な童歌だ。
功は行き場のない苛立ちを落ちている石にぶつける様に蹴っ飛ばした。
すると、その石は勢いよく海の中へ転がり落ちた。
「はあ……。暑っ!! 何で俺はこんな所にいなきゃいけねえんだ?」
石に八つ当たりしたとて功の気は全く晴れなかった。
暑いからと言って家に帰れば母の泣き言と祖父の小言が待っている。
酷暑の中、功は行き場を失った。
そんな功が当てもなく歩いていると声を掛けられた。
「おい、功じゃないか? 久しぶりだな!」
「えっと、誰だ?」
「そりゃねえだろ? 俺だ。裕司だよ!」
「あぁ……。裕司か!?」
それは、山川 裕司だった。
裕司は功が子供の時分、この僻地で良く遊んだ同い年の男である。
「功、どうしたんだ? 今日は墓参りか?」
「いや、違うよ」
「ふーん。まっ、こんな所じゃなく俺ん家にでも来ないか?」
「遠慮しとくわ。家族に迷惑だろ?」
功がそう言うと、裕司は笑い出した。
「何で、そんなに笑う?」
「だってよ、そんな事気にすんのかと思うとさ! それに俺は当に一人暮らしだ!
まあ、ボロアパートだがな!」
「えっ!?」
功は驚きとと共に羨ましさが溢れてきた。
十数年ぶりに会った同い年の同性が既に自由を手に入れている。
功はその自由を見て見たくなった。
だから、裕司のアパートに行く事にした。
「どうよ? まあ、大した物はないが暮らしていくには何の不住もないだろ?」
裕司のアパートに付き功はその部屋を見渡した。
裕司の言う通り、そこにはこじんまりとした家具等はあったがそれ以外何もなかった。
だが、功にとっては憧れの城に見えた。
何より外の日差しと酷暑、それに人から逃れられるというだけでそこは功にとって立派な城だった。
「羨ましすぎだ。いつから一人で暮らしてんだ?」
「そうだな、中学卒業してからだからな……」
「そ、そんな前から、なのか!?」
功の前には一刻上の主がいたのだ。
何も出来ない功はその主の下で少し世話になる事にした。
そして何をする訳でもなく他愛ない話をしていると時間等あっという間に過ぎ去り、
窓の外は真っ暗になっていた。
「やべっ!? 俺、そろそろ帰るわ!」
「えぇ? 功、どうせなら泊まってけよ?」
「そうはしたいんだが、連絡がねえと おふくろがうるせえんだ……」
「ははっ! そりゃそうだ! まあ、気が向けば明日も来いよ!
そん時はおふくろに友達んとこに泊まるって言っとけよ?」
「ああ、分かってら!」
そう言って功と裕司は笑い合った。
そして、アパートの入り口付近まで裕司は見送りに来た。
だが、月明かりもない真っ暗な道に功はぼんやりとだが人影が見えた。
恐らく、女だ。
きゃしゃな体に長い髪を濡らしているようで髪が体に纏わりついているのが分かる。
その女の しずしずと歩く姿は不気味だった。
「あ、あの女、気味が悪くないか?」
「女ぁ? そんなのいねえぞ?」
「いるよ! ほ、ほら! あそこだ!!」
裕司に分かるように功はその女を指差した。
だが、その方向には誰もいなかった。
「お、おかしいな……。確かにいたんだが……」
功はその女がいた処に駆け寄った。
だが、そこには女の姿はなく代わりに水たまりがあった。
その水たまりを見つめている功に生暖かい風が吹き付け、水たまりを不気味に揺らす。
その風は功を通り過ぎようとしたが通り過ぎずに女の長い髪のように纏わりついてきた。
さらにその風は功の首元にも絡んで来て、功は首を絞められる間隔を覚え息苦しくなった。
「な、なあ功、大丈夫か? 何なら俺ん家に泊まらないか?」
顔色が悪い功に裕司が声を掛けた。
だが、功は一刻も早くこの場を離れたかったので、そのまま家に帰る事にした。